伊賀市と芭蕉翁顕彰会は10月7日、「第74回芭蕉翁献詠俳句」の特選・入選句計73作品を発表した。入賞者は同12日に開かれる、同市出身の俳聖・松尾芭蕉の遺徳をしのぶ「第74回芭蕉祭」の式典会場で表彰される。【絵手紙部門の特選・葛原香洋子さん(伊賀市)の作品(提供)】

 同顕彰会によると、応募数は、一般の部9366句、テーマの部1832句、児童生徒の部2万3662句、英語の部1384句、連句122巻、絵手紙795点の計3万7161作品(ポスター原画除く)。英語の部には日本を含む37か国から、昨年(712句)の倍近い応募があり、国別の応募数上位はインド243句、米国198句、オーストラリア185句となっている。

 選者講評によると、今年度は新型コロナの影響で「自粛」「オンライン」「画面越し」「マスク」などの言葉が散見され、例えば小学校高学年では、新聞報道などに沿うような内容や、詩情や具体性が少ない傾向もあったという。学校全体で意欲的に創作活動に取り組んだ「三重県知事賞」には、私立白鳳幼稚園、市立城東中学校(いずれも伊賀市)が選ばれた。

 芭蕉祭に合わせ、ハイトピア伊賀5階(同市上野丸之内)では11、12日に一般参加可能な催しがある。いずれも事前申し込みが必要。

 ▽芭蕉祭記念講演会~歌枕俳枕講座 11日午後1時30分から。参加無料。演題は「地方遊俳としての樗堂」、講師は松山東雲女子大名誉教授の松井忍さん。予約制、定員80人(先着順)=市生涯学習課(0595・22・9679)

 ▽全国俳句大会 12日午後1時30分から同4時まで。参加無料。予約制、定員80人(9日午後5時締切)。1人3句以内。投句締切は同会場が午後0時45分、俳聖殿前式典会場が午前11時45分=市文化交流課(0595・22・9621)、芭蕉翁顕彰会(0595・21・4081)

 各部門の特選句は次の通り(敬称略)。

◇一般の部◇

【有馬朗人選】
貼り替ふる釣月軒の白障子(大阪府豊中市、鵜川久子)
茅の輪くぐる近つ淡海は星満ちて(名古屋市、光田道子)
【稲畑汀子選】
忌を修し別れを惜しみ秋惜しむ(横浜市、松永朔風)
宗派の祖鎮まる山の紅葉濃し(山梨県、上田正久日)
【茨木和生選】
飯匙倩捕りの道具と言ふも棒一つ(兵庫県宝塚市、廣田祝世)
梅雨茸その名一つも知らざりし(岡山県赤磐市、杉本征之進)
【宇多喜代子選】
ゆつくりと地殻変動牛蛙(京都府城陽市、森下まゆみ)
寒鴉大きく飛んで来て小さし(大阪府高槻市、高野卓也)
【小澤實選】
どこまでも一本道ぞ道をしへ(東京都杉並区、草野准子)
新涼や珈琲ぼくが淹れやうか(愛知県岡崎市、平田柚月)
【小川軽舟選】
風蘭を吊す古書店軒低し(伊賀市、佐々木経子)
井戸水に西瓜と足を浸しけり(埼玉県春日部市、内田木良)
【黒田杏子選】
薄氷は割らねばならぬ昼までに(松江市、寺津豪佐)
梅仕事日記に残す句に遺す(奈良市、杉田百合代)
【坂口緑志選】
慰霊の日礎をなぞる手も老いて(伊賀市、川口登子)
伊勢漁夫の土用の雨に蜆掻く(名古屋市、田辺満穂)
【塩田薮柑子選】
自粛解け街に繰り出す梅雨晴れ間(伊賀市、杉尾千代子)
探知器に魚影色濃き青葉潮(神奈川県厚木市、軍司毬衣)
【櫂未知子選】
体ごと笑つてゐる子金魚草(甲賀市、服部登紀子)
種案山子日照雨に胸を開きけり(東京都板橋区、笠原みわ子)
【西村和子選】
秋の雲美しければ命惜し(名古屋市、加藤利尾)
オンライン飲み会父の日の乾杯(津市、奥田敏)
【長谷川櫂選】
蜆汁貝にも故郷ありにけり(埼玉県富士見市、松島孝幸)
退屈な夫を遊ばす目高の子(愛知県半田市、矢浦みち子)
【星野椿選】
輪飾を掛けて使はぬ車井戸(愛知県西尾市、蓮沼たけし)
水打つて遠忌の僧を迎へけり(名古屋市、光田道子)
【正木ゆう子選】
三才の右脳に刻む蛍狩(愛知県半田市、桑田隆行)
明けぬ梅雨かも轟音の火球に尾(伊勢市、森下充子)
【三村純也選】
木々渡る風に鳴きつぐ法師蝉(奈良県桜井市、中佐代美)
さよならは云はず草笛鳴らしゆく(伊賀市、森中幸枝)
【宮坂静生選】
抽んづる樟の樹勢や七五三(横浜市、有手勉)
葉桜や観音鯛を抱き給ふ(愛知県岡崎市、内田周穂)
【宮田正和選】
鳥の影跳ねてむらさき花樗(伊賀市、森永康子)
岬宮への雨を繋ぎし夏木立(伊勢市、三ツ矢龍美)

◇テーマの部◇

【片山由美子選】
雪解水集め怒濤の天竜川(愛知県岡崎市、伊藤賢一)
遺句集となつてしまひぬ花は葉に(神奈川県茅ヶ崎市、長島久江)

◇児童生徒の部◇

【保育所(園)・幼稚園、小学1~3年=岡島千秋・佐々木経子・島井節・西村八洲子・福森志津子共選】

ウシガエルいつかぜったいつかまえる(伊賀市、みどり第二保育園、中崎遥人)
かぶとむしツノでたたかうちからもち(同、ゆめが丘保育園、境陸斗)
にゅうどうぐもおおきくなったらせんせいに(同、白鳳幼稚園、小妻奈央)
かぶとむしつのいっぽんのすもうとり(伊賀市立上野東小1年、森地やよい)
しおっからいえだまめぷっちととびだした(同上野北小1年、山添真佳)
たいふうでたけがだんすをしているよ(同中瀬小1年、榎並大翔)
れいわ二年マスクをつけてすごす夏(同上野西小2年、西村寧音)
水をまくはっぱに光るくもの糸(同上野西小2年、坂口加恋)
おにやんまなげたぼうしでつかまえた(同阿山小2年、箱林遼)
おじいさんマスクをとればあせのひげ(同上野東小3年、葛原理人)
青山の風車つつんだ二重にじ(同成和東小3年、川口慶悟)
空見上げ「きぼう」見つけた夕すずみ(同青山小3年、迫間羽純)

【小学4~6年=下村哲朗・土井陽代・浜地和恵・松村咲子・山村勝子共選】

おじいさん田んぼ仕事の日やけ顔(同友生小4年、森川仁瑚)
にじがでたちゃんと七色あるのかな(同神戸小4年、坂本彩音)
ツバメの子どの子が先にとぶのかな(名張市立桔梗が丘小4年、三村優月)
手作りの風鈴の音夜にひびく(伊賀市立久米小5年、福岡芽依)
ゆうぐれの田のあぜをとぶあきあかね(同友生小5年、宮﨑礼衣)
ラジオつけ終戦記念日知った昼(同依那古小5年、西岡詩織)
終戦日コロナ禍の下黙祷す(同上野西小6年、山口夢叶)
朝つゆの光る谷間を伊賀電車(同府中小6年、中村房宏)
名水のわき出る山とせみしぐれ(同友生小6年、武村悠登)

【中学校=喜多冨美・坂石佳音・永井みよ・東構東子・福山良子共選】

入学式不安をリュックにつめこんだ(同城東中1年、森田明寿香)
猛暑日で仮想空間夏の旅(桑名市立明正中1年、杉本真隆)
歯ブラシの先ばらばらに残暑かな(名古屋市立守山中1年、水野結雅)
一年に一度の見出し終戦日(伊賀市立緑ヶ丘中2年、田場美羽)
ヒマラヤに学校つくる夏の本(同城東中2年、北口陽翔)
夕焼けの朱に抱き込まれてゆく廃墟(高田中2年、加藤晴香)
秋夕焼山車跡たどる塾帰り(伊賀市立城東中3年、石川友伊那)
満員バス汗の引く間もなく降車(名張市立名張中3年、柴千都世)
ベランダへ出るはだしからしんと夜(女子学院中3年、石鍋更紗)

【高校=喜多冨美・坂石佳音・永井みよ・東構東子・福山良子共選】

飛ばぬ蝉手足を曲げて空を抱く(三重県立上野高1年、澤田ひなた)
足早に登る階段夏の宵(同名張青峰高1年、水谷夏葵)
ラフマニノフ弾いて晩夏の祈りとす(麻布高2年、土谷多央)

◇英語俳句の部◇
【河原地英武選・訳】

A-bomb blast centre
long row of lanterns flows
on the Motoyasu River
流燈の列の長さよ爆心地
(Adam Kajzer,Poland)

The castle comes in sight
from anyplace in the town
high autumn sky
どこからも城見ゆる町天高し
(Kyoko Simizu(清水京子),Japan)

◇連句の部◇
【北原春屏・林転石・宮川尚子・西田青沙共選】

半歌仙『旅立ち』の巻(京都府、古都連句会)
廣瀬松石 捌

行春をあふみの人とおしみけり   芭蕉翁
 柳の門をくぐる旅立ち       井尻 荷葉
暮遅し猫があふるる港にて      冬日庵訥平
 八十路の大工未だ現役       出来 千苑
月出づとそろりと仕舞ふ道具箱    竹本 俊世
 赤い羽根をと声を張る子等     岡本 利英
駅前の案山子も笑みてがんばれと   廣瀬 松石
 太刀洗ふてふ戦跡の川           荷
お姫様輿入れ従者千余人           訥
 庭師との恋秘めて激しく          千
四阿に媚薬の香り充つる宵          俊
 塀の向うを竹竿売りが           利
パナマ帽伊達な遺影に時止まる        松
 梅雨の雲間に久方の月           荷
無言行遂に阿弥陀の声を聞く         訥
 思索の小径足取り軽く           千
目と鼻の先に揺れます花の枝         俊
 遠き蛙に一日終はりぬ           利
  
       令和二年六月一日 満尾   文音

◇絵手紙の部◇

伊賀市、葛原香洋子

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