「こんな状況だからこそ、音楽を届ける私たちが元気でいないと」。そう力を込めて話すのは、京都を拠点に活動する、伊賀市出身でボーカリスト・シンガーソングライターのアヤヲさん(39)=写真。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、3月以降のライブや出演イベントが軒並み中止や延期になるなか、「芸術やエンターテインメントはどうしても後回しになりがち。だけど、逆に『喜んでもらうこと』『楽しませること』の本質と向き合っている気がする」と、複雑な胸の内を明かしてくれた。

「元気届けたい」マンスリーライブは配信に

 上野高校を卒業後、京都で音楽活動を始め、2002年に加入したバンド「ガリバーゲット」でメジャーデビュー。力強さと繊細さを兼ね備えた歌声に思いを込める個性派ボーカリストとして、11年の解散後もソロでライブを中心に音楽活動を展開する。18年に念願の初ソロアルバム「ひとりごと」、今年4月には3曲入りCD「39-homework vol.1-REC at RAG」をリリースした。

 今年も2月までは週末を中心にライブが続いていたが、3月ごろから情勢は一変。「この状況で、閉めてしまったライブハウスもある。育ててもらった大切な場所が大変な時だからこそ、形を変えてでもやれば恩返しになる」と信じ、40歳を迎える来年まで、4月から1年間かけて行うマンスリーライブの初回と2回目を配信形式に変更した。「伊賀の人や遠方のファンからも反応があってうれしかった」と手応えは感じている。

配信した4月のライブの様子。中央がアヤヲさん(提供、3枚とも)

大学での活動刺激に

 近年ライフワークになっているのが、15年から縁あって参加している、神戸学院大学(神戸市中央区)現代社会学科ゼミのプロジェクト。兵庫県内の市町でフィールドワークを通じて地域活性化を考えるもので、アヤヲさんはシンガーソングライター・クリエーターの山田明義さんとともにオリジナル曲も作り、時には学生たちと合唱もした。「音楽で地域の皆さんに喜んでもらえた。地元の大切なものに気付く貴重な経験ができて、私自身が刺激や元気をもらえた」。

母親から届いた手作りマスク

 今年は十数年ぶりに故郷でのライブ出演も予定していたそうだが、残念ながら見送りとなった。今は伊賀への帰省も難しいが、5月に入り、実家の母親から届いた荷物には手作りマスクがあった。「実家のにおいがした」と表情を緩める。

 同大学の15年度のプロジェクトで作った「たからもの」という歌の最後に、こんな一節がある。「君を育ててくれた すべてのものが たからもの」—。故郷を離れて20年、「身近にいる人を幸せにしていく」という信念を大切に〝伊賀の歌姫〟はこれからも自分自身や誰かの「たからもの」を歌に乗せて届けていく。

2020年5月30日付772号2・3面から

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