NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」で主人公の明智光秀が魅了された火縄銃。発砲用の火薬を引火させる火種として使われているのが「火縄」だが、「ドラマで使用されているのはここで作ったもの」と語る、名張市上小波田の「火縄保存会」会長の岩嵜義孝さん(71)。【提供した火縄が登場する「麒麟がくる」の一場面を見る岩嵜さん=名張市上小波田で】

 今も火縄は各地で作られているが、真竹のみで作るのは上小波田だけで、長さ10センチで1時間も火持ちするほど品質が高い。昨年7月、名張市を通じてドラマに使用したいと依頼があったという。

 同地区で火縄作りが始まったのは江戸時代の寛文11(1671)年とされ、当時の名張を統治していた藤堂藩の保護の下に生産。伊賀市高尾から名張市新田まで引いた水路を防衛する鉄砲隊を組織するため、100丁分の火縄を「小波田村」に発注したと伝えられている。

 江戸期までは火縄銃に、明治以降は寺社の行事や花火用に需要があったという。例祭で火縄銃を使う愛知県豊田市の足助八幡宮や、年越し行事「おけら祭」が有名な京都市東山区の八坂神社に奉納。八坂神社には多い時には年7600本、現在も1千本納めており、参拝客はおけら木でおこした火を縄に移して家に持ち帰り、正月の煮炊き物の種火にし、残った縄は台所に飾って「火伏のお守り」にしている。

 明治初期には、農閑期の副業として地区のほとんどの農家が火縄作りに従事していたそうだが、後継者不足で半減。2016年にはついに「最後の職人」と言われた岩嵜さんの親類、故・岩嵜筧一さん1人だけになった。

なたを使い青竹を削る作業の様子=同

「伝統産業を継承」作業体験も

 復活の転機になったのは同年8月、名張市から「隠街道市」で火縄作りの実演を依頼されたことで、来場者から大きな反響を得た。11月には岩嵜さんの呼び掛けで「火縄保存会」が発足。メンバーは30代から70代までの6人で、このうち4人は経験が無かったため、筧一さんに指導を仰いだ。

 火縄の作り方は、真竹の皮をなたではぎ、白い肉質部を薄く削って繊維状にし、これを数本ねじり合わせて縄にする。1本3・3メートルの長さに仕上げるが、寒い冬でも汗だくになるほどの力作業だ。「頑張っても1日に1人10本ほどしかできない」と岩嵜さん。

 保存会が組織されて以降、各地の神社からの発注が増えている。今年の正月には同市新田の美波多神社に、3月には奈良県桜井市の大神神社に初めて奉納した。

 保存会のメンバーは、農作業の合間に岩嵜さん宅の作業場に集まり、1本ずつ作りためている。岩嵜さんの自宅はまちかど博物館「火縄館」に認定されていて、事前に予約すれば作業体験もできる。岩嵜さんは「後継者の問題は悩ましいが、この地に伝わる伝統産業を継承していきたい」と話している。

2020年4月25日付 770号 7面から

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