伊賀市が「日本一の公衆トイレ」設置を進めている「上野東町ポケットパーク整備事業」の予定地近くで、住民とのあつれきを生むかもしれない新たな懸念が出てきた。6年前に住民の強い反対で頓挫した、銀座通り(県道上野大山田線)の街路樹を桜に植え替える構想について、今も市は諦めていないというのだ。トイレ自体にも外観が景観基準から外れているのではとの指摘もある。

 市の資料によると、同事業は玄関口にふさわしい「まちのシンボル」を目指しており、公衆トイレは屋根の形状が桜の花びらがモチーフ。芭蕉が詠んだ「さまざまのこと思ひ出す桜かな」の句や敷地内に植える予定のシダレザクラと呼応したものだという。景観説明の中では銀座通りについて「将来桜の並木道として植樹計画がある」と記載している。

 植え替えはそもそも、観光立市を掲げて初当選した岡本栄市長が1年目の2013年当初予算に、県が植樹した常緑のシマトネリコからヤエザクラなどに植え替えるための工事費850万円を計上したことに始まる。区間は上野東町交差点から南に延びる上野恵美須町までの約580㍍で、結局は予算を翌年度に繰り越したが、住民との合意形成が得られず実現しなかった。
 岡本市長は取材に「市街地を心地よく巡ってもらえるよう観光客らを誘導していかないといけない。伊賀上野NINJAフェスタの時期は桜の季節と重なる。住民の皆さんの理解を得ながらやっていきたい」と答え、街路樹の植え替え実現に強い意欲を示した。

ポケットパークのトイレ 景観との整合性で意見も

 同事業を巡っては、十分な話し合いをせずにトイレ設置を決定したとして、一部の地元住民らから反発を招いている。他にもトイレの外観で疑問視する人もいる。中止になった1回目の工事入札で、設計図を見て辞退したという市内の建設会社の男性社長もその一人だ。

 理由は「既存の民間建築物が市ふるさと風景づくり条例の制約を受けながら街並みを形成しているのに、トイレの意匠はこれらと調和し難いと判断した」と説明。「市の責務に公共施設の整備は良好な景観の形成に先導的な役割を果たすよう努めなければならないと規定しているが、率先してルールを破っている」と批判した。

 2月末に再公告した工事の入札は参加資格を全国に広げたが、市内業者が落札した。業者選定の期間中に開かれた景観審議会では事務局の都市計画課に対し、委員から開催時期や設計者の選定方法などで意見が相次いだ。

 市が条例に基づき策定した景観計画との整合性にも意見が出た。同公園は銀座通り沿いの住宅や店舗と同じ「城下町の風景区域」(重点区域)だが、トイレは形成景観基準の項目に挙がっている1階軒線の連続性や屋根の彩色・勾配と合致していなかった。

 同課は「法律上は一般家屋や店舗と同じ建築物だが、小公園のモニュメント性を持たせたトイレとして計画に適合していると総合的に判断した」と説明する。

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