終末期の医療はどうあるべきか。名張市夏見の寺田病院で院長を務める板野聡さん(65)がこのほど新刊小説「看取り請負人―死なせ屋ゴンがゆく」をルネッサンス・アイから出版した。【出版した本を手にする板野さん】

 小説の執筆について「頭の中で情景が思い浮かび、人物が勝手に動き出す」と表現する板野さん。同作は「星になった少女」「伊達の警察医日記」に続く3作目で、医学雑誌「臨床外科」に長年連載してきたエッセーを基に編集した。

 主人公の伊達健夫医師がさまざまな患者と出会い、医療の果たすべき役割に葛藤しながら「先生に死に水を取ってもらいたい」と患者に慕われる「ゴン先生」へと変化してゆく過程を描いている。

 主人公は「こんな医者になりたい」という板野さん自身の夢を託した姿。作中に登場する患者たちは過去に実際に出会った人をモデルにしているという。

 「私は患者さんのことを心の奥に封印できない医者」という。消化器外科医としてこれまで7800件を超す手術に携わり、多くの学術論文を発表してきた一方、「論文では患者さんの思いや医療スタッフの心の葛藤を表現できないから」と小説を書く理由を語る。

 昨年5月、地元の岡山県で内科医院を開業していた父を亡くしたが、同年秋から編集を始めた今作の出版日を1年後の命日に合わせた。「患者さんの痛みを感じられる医療人であるため、改めてゴン先生に学ばなければならない」と思いを新たにする。

 新刊は四六判420ページで、定価1300円(税別)。インターネット通販で購入可能。名張市内ではブックスアルデ各店で取り扱っている。

2018年11月10日付735号2面から

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