711・佐藤さん2.jpg 現役時代、家庭裁判所の首席調査官を経て、裁判官として活躍した名張市百合が丘東1番町の佐藤洋一さん(74)=写真。多くの男女のいさかいに関わった自身の体験を基に、「佐藤丈洋」のペンネームでフィクション小説「男女紛争事件 追憶の法廷」をこのほど自費出版した。

 佐藤さんは1969年から35年間、家庭裁判所の調査官として、離婚やDVなどの家庭内のトラブル、ストーカーや性犯罪事件に関わった。45歳で臨床心理士の資格も取得し、首席調査官となった退職前3年間では7000件の事件を精査。60歳で簡易裁判所の判事に転身し、70歳の定年までに約1200人の犯罪被疑者の面談などを通じ、男女の人間模様に深く関わった。
 小説は文庫版368ページ。2016年8月、文芸社から300冊を出版し、このほど重版が決まった。主人公の裁判官・藤倉洋文が扱う裁判の時系列に沿って進行する「法廷小説」で、物語中に描かれる心中事件などは、実際に佐藤さんが携わった事件から着想を得たという。
 事件内容を知るために提出されたな証拠写真や映像、音声は今でも夢に見るほど記憶に残っているといい、「事件の詳細を知る身として、事件の経緯や社会復帰した女性たちの思いを世に還元し、関わった女性たちへの鎮魂歌にしたい」と筆を執った。乱暴な言葉や暴行、情事もありのまま生々しくリアルに描いたのもそのためだ。
 本は1冊800円(税別)。多くの人に読んでほしいと、市立図書館と市人権センターにそれぞれ2冊寄贈もした。「男女共同参画社会というが、社会では女性はまだ虐げられている。法の下の不平等をも感じた」というのが佐藤さんの持論だ。事件後、潔く、たくましく生きる女性たちに感銘を受けるばかりだった。「女性たちへの応援歌にしたい。いつどんな事件に遭うか分からない。万が一の時にどう対処したらいいか、役立ててもらえたら」と話した。
2017年11月11日付711号13面から
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