身近な地域を実際に歩いて巡る「てくてく歩記」。今回は、3月12日に行われた、名張市から奈良・東大寺への「松明調進行事」に同行し、途中から名張へ戻る約17キロのコースです。(取材・山岡博輝)【1枚目の写真 坂之下から笠間峠へ。梅が見頃を迎えていた】

 地元の「伊賀一ノ井松明講」が、お水取り(修二会)の行われるこの日にたいまつを寄進している行事で、700年以上の歴史があると伝わっています。2月11日に切り出して調整した5荷のたいまつを、地元住民ら講員や市民団体のメンバー、学生らが交代で運びます。
 
 うっすらと夜が明けかけた早朝6時、名張市赤目町一ノ井にある極楽寺へ。約250人の参加者が道中の安全を祈願した後、ほら貝の音を合図に出発しました。一ノ井の集落を抜け、小さな踏切で近鉄大阪線を渡ります。さすがに200人を超す行列、後ろの人たちがかなり小さく見えます。
【重いたいまつを担いで峠への山道を登る】
 
 宇陀川を渡り、安部田の坂之下集落で小休止。重さ数十キロのたいまつを担ぐため、ところどころで休憩を挟みながらの行程です。家々の間の細道を上っていき、ほどなく未舗装の山道へ。朝露に濡れた落葉に足をとられつつも、老若男女が歩を進めます。
【上笠間では「笠間の郷を思う会」の皆さんがシシ汁とおにぎりでもてなしてくれた】
 
 木漏れ日が差し込む急坂を一歩一歩上り、前方に光が見えてくると、午前8時半ごろに宇陀市室生上笠間の峠青葉集会所前へ。山道を歩いてきたからか、久しぶりに集落を見たような錯覚に陥ります。小休止したら後は下りが続き、同9時過ぎに音楽の森ふれあい館へ到着。地元の「笠間の郷を思う会」の皆さんがシシ汁やおにぎりでもてなしてくださいました。
 
 ここで東大寺を目指す一行を見送り、来た道を少し戻ります。峠への道を左手に見ながら深野方面へ。広域農道方面への道と分かれて東へ。ゆるやかに続く上り坂は、疲れがたまり始めた足にはやや厳しいようで、休み休み進んでいきます。
【「日本の里100選」にも選ばれている深野の風景】
 
 視界が開けると、そこに広がるのは深野の集落越しに見える名張市西部の山々。この風景を求めて各地から訪れる人も多いそうです。神明神社を過ぎて間もなく道幅が狭くなり、林間の下り坂へ。疲れた足には下り坂も決して楽ではなく、歩いて帰る行程を組んだことを後悔しました。
【深野から安部田へ下り、ゴールを目指す】
 
 安部田や矢川の集落が見えてくると、電車の通り過ぎる音が聞こえました。国道を渡り、安部田の鹿高集落を宇陀川沿いに歩いて橋を渡ると、あとはひたすらスタート地点を目指すのみ。線路端で近鉄特急「しまかぜ」を写真に収めるなどし、午前11時45分に極楽寺前へ戻りました。歩数計は2万1863歩を指していました。

 現在の行事では、上笠間からバスなどで東大寺へ向かいますが、その昔は全て人の手でたいまつを運んでいました。いにしえの人たちの苦労に思いをはせながら、今年もこの行事の一部に参加できた喜びをかみしめました。 
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