【咲いたソテツの雄花を眺める佐野さん=名張市富貴ケ丘で】

喜界島生まれ 独特の甘い香り 佐野さん

 三重県名張市富貴ケ丘5番町の佐野實さん(79)方の庭先でソテツの雄花が開花し、辺りに独特の甘い香りを漂わせている。25年以上前に妻ヤス子さん(74)の故郷・喜界島(鹿児島県喜界町)からやって来て以来初めての開花に、2人だけでなく近所の人たちも驚いている。

 ソテツは、日本では九州や沖縄などで生育する常緑の植物で、大きいものでは高さが3、4メートルにもなり、幹は古くなった葉を落としながら丸太のように成長する。

 佐野さんは、定年後の住まいにと大阪から移り住んだ当時、喜界島に暮らす義兄から2本を譲り受け、そのうち1本が今も残っているが、花を付けたことは無かった。

 6月初旬、頂部に擬宝珠のような塊ができた時も、初めての出来事に戸惑っていた佐野さん。1か月ほどすると薄黄色の長い松ぼっくりのような円柱状の花序が伸び始めた。1週間くらいで幹丈と同じ50センチ前後に成長し、「腐った果物みたい」な強い香りが続いたそうだ。

 佐野さんには、ソテツの思い出がある。結婚当初に喜界島で口にした、ソテツの実を使ったみその味だ。奄美諸島や沖縄の郷土料理で、雌花の開花後に採れる実に含まれる有毒成分を取り除き、こうじに加工して作られるもので、半世紀以上経った今でも「おいしかった。もう一度食べてみたい」と思わせるそうだ。

 自宅などでたくさんの野菜や花を育てている佐野さんは「初めて花が咲いたということは、何か良いことがあるかもね」とほほ笑んでいた。

開花の条件は

 京都府立植物園(京都市左京区)によると、ソテツは本州では十数年や数十年おきにしか咲かないが、今年は府内でも咲いたという問い合わせが例年より多いという。何らかの気象条件が重なった時に開花しやすくなると考えられているが、確かな要因は分かっていないそうだ。


開花した雄花を見つめる北廣さん=名張市黒田で

見るほどに不思議 北廣さん

 名張市黒田の自営業、北廣定典さん(72)方でも、23年前に友人から譲り受け、庭先に植えていたソテツの雄花が7月上旬に初めて開花した。

 「何やこれは?」―。6月中旬、葉の間に松ぼっくりのような丸い大きな塊ができ、数日のうちに伸び始め、高さは40センチほどになった。開きだした花からはバナナに似たような強めの甘い香りが広がっている。

 譲り受ける前も8年ほどは花が咲いたことは無かったそうで、北廣さんは「花が咲いたのも不思議だが、咲いた後の花はどうなっていくんだろうか」と不思議そうに眺めていた。

2022年7月30日付824号2、3面から

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