【品川電機製の真空管や自費出版した伝記を紹介する橋本さん=名張市下比奈知で】

電子部品業界で功績

 真空管収集家の橋本明洋さん(68)=三重県名張市下比奈知=が、戦前から戦後の高度経済成長期に電子部品業界で活躍した伊賀出身の技術者の伝記「剛毅果断の生涯 前田久雄小伝」を自費出版した。橋本さんは「伊賀にこんな人がいたと知ってほしい」と話す。

 前田久雄(1908‐67)は中瀬村羽根(現・伊賀市羽根)で生まれ、上野中学校(現・上野高校)を卒業後、静岡県の浜松高等工業学校(現・静岡大学)で学んだ。1937(昭和12)年には28歳で真空管メーカー「品川電機」の経営に携わった。

 55(同30)年には、真空管ラジオからトランジスタラジオへの移行を予想して「東光ラジオコイル研究所」(後に東光、現・村田製作所グループ)を設立し、トランジスタラジオ用のコイルメーカーとして世界的な地位を確立。62(同37)年にはコンピュータ用メモリーも開発した。

 66(同41)年には、技術者としての功績が認められ、紫綬褒章を授与された。羽根地区など、故郷へのさまざまな寄付を行ったことも伝わっている。

 橋本さんは20年ほど前、品川電機製の真空管を収集する中で、前田氏が伊賀の人だと知り、興味を抱いた。2021年に発行した「日本真空管大全」でも触れたが、その後に遺族や郷土史家らと巡り会って資料を収集し、その波乱の人生を本にまとめた。

 橋本さんは「前田氏は事業に失敗することがあっても、協力者が絶えなかった。すごく魅力的な人物だったのだと思う」と話した。

 本はA5判221ページで、100冊発行。伊賀市の岡森書店白鳳店(平野東町)で扱っており、伊賀市上野図書館と名張市立図書館、三重県立図書館(津市)、国立国会図書館には寄贈したという。

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