【育てている蚕を紹介する北村さん(左)と繭を使って作った動物のオブジェ=伊賀市で】
三重県伊賀市の八幡町地区住民自治協議会が養蚕に取り組んでいる。今年は、繭から生糸を紡ぐことより、「命をつなぐこと」に専念したという。
中心になって育てているのは同自治協事務局長の北村夕美さん。きっかけは2年前。人権教育部会長の山中理恵さんが、地域活性化や異世代間交流などを目的に、「地域の先人たちの暮らしを伝承する意味も込め、かつてこの地域で盛んだった養蚕で組みひも作りに取り組もう」と発案した。
同じ年の6月、地元の保育所から約30匹の幼虫を譲り受けた。1か月後には約3センチの繭を作ったため、冷蔵庫で保管し、年末に繭の生糸を使った組みひものブレスレットを制作した。ただ、量が少なく、大人10人分、子ども数人分しかできなかったという。
その経験を受け、昨年は蚕を育てることに専念したものの、孵化したのはわずか2匹。再挑戦した今年は150匹ほどの幼虫を購入。インターネットで詳しい育て方を調べて実践したところ、成虫に育った蚕が3万個以上を産卵。これを、「休眠卵」と「非休眠卵」に分け、非休眠卵は2週間ほどでほぼ全部が孵化したが、育っているのは400匹ほど。
孵化した幼虫たちは北村さんが再利用したコピー用紙の箱に収め、勤務が終わると家に持って帰っている。柔らかくて新鮮な桑の葉を朝昼晩1日5から10回与え、温度や湿度の管理にも気を使う。「世話をしていると可愛くて仕方ない」と笑い、最近は「ただいま」や「おやすみ」など声を掛けてしまうそうだ。
養蚕が盛んだった町まで勉強に行くなど、養蚕熱は高まる一方。自治協スタッフが方眼用紙で作った4、5センチ角の「蚕マンション」で、約3センチの白い繭を作ってくれるという。
繭は生糸を作るまでは冷蔵庫に保存している。成長の過程で破れた繭は、糸取りには不向きなため、それを利用して動物のオブジェを作ったりもしている。
「蚕というのは、神秘的で、はかない。一生懸命生きているので、大事にしてあげたい」と北村さん。「今年はいっぱい繭ができそうで、とても楽しみ」と笑顔を向けた。