80代の親が、ひきこもりなどで収入のない50代の子どもを支える「8050問題」は、社会課題として既に広く知られている。問題は年々深刻さを増し、今や90代の親と60代の子どもによる「9060問題」へと移行している。

 内閣府が2023年に公表した調査によると、40歳から64歳のひきこもりの人は全国で約84万人に上ると推計される。バブル崩壊後の就職氷河期に正規雇用の機会を逃した人々が、自立できず、親の年金や貯金に頼って暮らす現実がある。

 9060問題では、介護・生活困窮・社会的孤立が複雑に絡み合い、親子を追い詰める。親が亡くなれば、社会との接点を失った子どもは孤立し、生活が破綻し、やがて孤独死に至る可能性もある。実際、親の遺体を放置したり、年金を不正に受給したりするような事件が各地で発生している。

相談から支援に

 親子が共倒れする前に、どのように支えるかが問われている。三重県名張市では、「8050」「9060」に加え、ひきこもりや不登校など既存の枠に収まらない「はざまの困りごと」にも対応できる体制を築いている。市内15か所に設置された「まちの保健室」は、子どもから高齢者まで誰でも気軽に相談できる場となっており、市の関係部署や専門機関と連携しながら支援につなげている。

 名張市地域包括支援センター長で保健師の柴垣維乃さんは、「8050や9060だけでなく、家庭によっては孫の世代である30代も含まれる場合がある」と語る。名張市では特定のケースに限定せず、日常のつながりの中で相談しやすい場づくりや対応を心掛けている。

 望まない孤立状態にある人や「助けて」と言い出せない人などへ、「まず、相談できる場所があることを知ってもらうことが大事だと考えている」と柴垣さん。「当事者の背景を理解することも大切だ。本人や家族の責任ではなく、時代の影響も大きい。だからこそ、地域から孤立しないよう、つながりを大切にした地域づくりが必要と考える」と話す。

 名張市では、まちの保健室や地域の民生委員・児童委員、市役所の各窓口など、どこからでも適切な支援につなげられる体制を整えている。中でも、まちの保健室は地域に根ざした身近な相談窓口として重要な役割を果たす。柴垣さんは「8050や9060に限らず、困りごとがあれば、気軽に相談してほしい」と呼び掛けた。

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