【「ひのまな漬」の贈答用の箱を手にする姫公代さん(左)と和田さん=伊賀市上野新町で】

 三重県伊賀市上野新町で3代にわたって営まれてきた漬物店「和田漬物店」が、6月初旬に店を閉じた。店主の和田郭史さん(76)、姫公代さん(74)夫妻は「寂しいけれど、私たちも年を取り、材料の調達も難しくなった。お世話になった人たちには感謝しかない」と語る。

漬け込む前のヒノナ

 和田さんの祖父・鹿之介さんが戦前に「和田漬物商店」を創業し、「伊賀名産 ひのまな漬」(ヒノナのぬか漬け)を主力商品に、番頭や丁稚なども抱える漬物専門店として市街地の人たちに親しまれてきた。2代目の父・利男さんから和田さんが継いで約40年、1年で最も忙しい歳暮用など贈答の需要が減少してきたことに加え、2021年6月の食品衛生法改正が店を閉める大きな契機になったという。

戦前ごろと思われる店舗の写真。手前右が初代の鹿之介さん(和田さん提供、右下写真も)

設備投資の負担

 今回の法改正の経過措置が終わった今年6月以降、漬物製造業は保健所の営業許可制となり、国際的な衛生管理手法「HACCP(ハサップ)」に沿った管理が求められるようになった。住居用台所との兼用禁止や、洗浄・手洗い・保管設備の基準厳格化など、特に個人生産者や小規模事業者にとっては基準を満たすための設備投資が大きな負担となり、生産をやめるケースが全国で相次いでいる。

 伊賀地域では珍しい、約100年続いた個人経営の漬物専門店。「『ここの漬物じゃないと』と言ってくださる方も多かった」と振り返る長男の崇さん(48)は「いつかこの日が来ることは覚悟していたが、実際にこの時が近付くと想像以上に寂しい」と話す。定休日でも仕込みに精を出すことの多かった和田さん夫妻は「長くひいきにして頂きありがたかった」と口にした。

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