三重県名張市桔梗が丘南の加藤正躬さん(92)が60年以上かけて集めた世界各地の昆虫約3500点の標本を、「りんたろう昆虫博物館」の名前で昆虫飼育販売業を営む伊賀市千戸の浅野凛太郎さん(26)に託した。高齢になり管理が難しくなっていたところ、浅野さんを紹介したYOU記事をきっかけに譲渡の話が生まれ、貴重な資料が全て引き継がれた。
標本は、世界最大級のチョウ「ゴライアストリバネアゲハ」、羽が青く輝く「モルフォチョウ」、羽を広げると20センチにもなる「テイオウゼミ」、七色に輝く「ニジイロクワガタ」などさまざま。申し出を快諾して加藤さん宅を訪れた浅野さんも、床一面に並ぶ50個の標本箱を前に目を丸くした。
加藤さんは神戸市で生まれ、物心ついたころから野山を駆け回り、チョウやセミ、甲虫などの昆虫を追い掛けて採集した。「カナブンと間違えてクマンバチを手掴みし、刺されたこともあった」と当時の思い出を話す。子どものころに採集した昆虫の標本は、「戦争で疎開した間に空襲で焼けてしまったようだ」と振り返る。
戦後、ガラスメーカーに就職し、技術職としてヨーロッパや中東、東南アジアなどへ出張や駐在を重ねた。採集活動も再び本格化し、時間を見つけては帽子を網代わりにして昆虫を探した。
ベトナムの景勝地のホテルで50代の時に採集したあるチョウは、その場所でしか生息していない種類で、図鑑にも載っていなかったという。こつこつと採集したり、専門店で購入したりしながら標本を増やし、自宅1室は昆虫専用の部屋になった。
情熱を傾けた昆虫集めも、5年ほど前に区切りを付けた。今後のことを考えていた時、YOU紙面で伊賀地域に住む昆虫愛好家の浅野さんの存在を知り、「この人に託したい」とYOUに家族を通じて連絡した。
浅野さんは「90年来の思いを受け継ぐことができよかった。この美しい昆虫たちを色んな人に見て頂き、子どもたちに魅力を伝えていきたい」、加藤さんは「引き継いで頂き、虫たちも喜んでいると思う。ほっとした」と話した。
2023年11月11日付855号2、3面から
【訂正します】855号の紙面記事で、「世界最大のチョウ『アレクサンドラトリバネアゲハ』」とあるのは「世界最大級のチョウ『ゴライアストリバネアゲハ』」の誤りでした。
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