【装束をまとい包丁と真魚箸を手にタイをさばく山田さん(茨木市提供)】

 日本料理の礎を築いたとされる藤原山蔭を祭る大阪府茨木市の総持寺の伝統行事「山蔭流庖丁式」で、三重県名張市鴻之台1の飲食店経営、山田学さん(46)が、奉納儀式を行う「庖丁士」を務めた。古式にのっとり、タイに手を触れずに切り分ける妙技を観衆の前で披露した。

 藤原山蔭は「庖丁道の祖」や「日本料理中興の祖」と呼ばれる平安時代前期の公卿で、同寺を創建したと伝わる。毎年、山蔭を元祖とする流派の料理人でつくる「山蔭流京奉会」が、命日の4月18日の庖丁式で魚の生け作りを奉納している。

 庖丁式は、包丁と箸を使って食材に直接手を触れずに切り分けて並べる儀式。貴族が賓客の目の前で調理を見せたことに由来し、平安時代から宮中行事としても行われてきたという。

「庖丁士」を務めた山田さん=名張市鴻之台1で

特別な位置付け

 山田さんは伊賀市の青山地区出身で、小学生のころから料理に興味を抱くようになり、高校在学中から大阪の高級ホテルの日本料理店で修業。各地の店舗に派遣されるなどして経験を積んだ後、32歳で独立し、地元に近い名張市内で「割烹 和心(まごころ)」を開店した。

 師匠が山蔭流の料理人であったため、山田さんは20代から庖丁式にも関わってきた。昨秋、京奉会からの推薦があり、総持寺での庖丁式を担当することに決定。山蔭流は住吉大社など数か所で庖丁式を行っており、大阪天満宮で過去に経験していたが、今回の総持寺は流派の中で特別な位置付けだという。

 山田さんは営業の合間に5か月間、練習に取り組んだ。市内の山蔭流の師範に所作を確認してもらった他、晴れ舞台に向けて専用の包丁と箸も新調した。

 庖丁式は「庖丁式殿」とも呼ばれる境内の開山堂で行われ、200人近くの見物客が詰めかけた。山田さんは烏帽子と直垂をまとい、右手に長さ約40センチの包丁、左手に真魚(まな)箸を持ち、堂内に流れる雅楽の調べに合わせながら華麗な包丁さばきを披露。お題の「三曲之鯛」をまな板の上に完成させた。

亡き師匠の教え

 儀式を終えた山田さんは「7年前に亡くなった師匠の教えを改めて思い出しながら取り組んできた。適度な緊張の中、今までで一番うまくできた」と振り返り、「儀式に臨み、伝統を継承していけるのも、いつも支えてくださるお客さまのおかげ」と話した。7月24日には大阪天満宮の天神祭の宵宮で庖丁式を担当する。

2023年5月27日付844号2,3面から

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