会社員として働く傍ら、休日を利用し、三重県伊賀市予野の鍛錬所で刀を打つ、奈良県三郷町の石原崇史さん(59)。理想の「名刀」を目指し、黙々と熱した鉄を打っている。
子どものころ、おもちゃの刀に触れ、漠然と刀への憧れがあった。働き始めてからは骨董品に興味を持ち、知人に見せてもらった刀の魅力にとりつかれた。その後、さびた刃物の研磨に挑戦するなど、刀鍛冶のまねごとをしていた。
転機は40歳のころ、旅行で訪れた岡山県の刀鍛冶に影響を受け、本格的にその道に進むことを決意。若いころに修業を始める人が多い中、「今の年齢で働きながらだと難しいかな」と不安を抱いたが、快く弟子入りを認めてもらえたという。週末に岡山の鍛錬所まで片道3時間かけて通い、10年間の修業を経て製造資格を取得した。
「鉄の塊から」できる驚き
両親が持っていた土地を借り、約10年前に設立した「祐崇刀剣鍛錬所」は、動画などを参考に自ら建設した。木造2階建てで、延床面積は30平方メートルほど。日本古来の製鉄法「たたら製鉄」の炉、ウッドデッキがある休憩所など、理想とする環境を整えた。
原料となる「玉鋼」は、全国から集めた成分の異なる砂鉄を混ぜて作る。調合の割合を変えるだけで硬さや刃文の動きが異なる刀に仕上がるという。炉にくべる木炭も炭焼き小屋で自作。こだわりの一振が完成するまでには1年以上を要することもあるそうだ。
全日本刀匠会によると、登録している全国の刀鍛冶は、30年ほど前には300人以上いたが、現在は約170人と後継者不足が深刻な一方、「近年はアニメやゲームの影響で若い人の刀への関心が高まっている」という。石原さんは「何より作ることが面白い。鉄の塊からこんなに美しい刀ができるなんて驚き」と魅力を語った。
2023年3月25日付840号2面から
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