【育てた白いイチゴ「淡雪」を手に取る宮澤さん=伊賀市法花で】

 三重県伊賀市法花のイチゴ農園「遊士屋苺農園」の代表を務める宮澤大樹さん(31)は、デザイン会社の経営者から転身した若手農家。「最高のイチゴを世界に届けたい」と立ち上げたブランド「完熟クラフト苺『BERRY』」は全国から予約が集まり、著名な料理人やパティシエからも好評だ。

白いイチゴ「淡雪」

 宮澤さんは愛知県出身。大阪市内のデザイン会社では幅広い業種の企業から、新規事業開発やプロモーションの依頼を受けていた。農業系プロジェクトに関わった時、「クリエーティブな力で農業の未来を変えたい」との思いが芽生え、共同創業者である2人の知人と農園の立ち上げを決意。2017年、仲介してもらった遊休農地を借りると同時に伊賀市に移住、事業を始めた。

 現在は、約5000平方メートルの土地に建てた18棟のビニールハウスで、「よつぼし」「紅ほっぺ」「淡雪」の3種類を育てている。収穫時期の11月から5月末には、約20人のスタッフが早朝から出荷作業に取り組み、熟度を一つひとつ丁寧に確かめている。

 販売したイチゴはすぐに評判となり、レストランや個人への直接販売を中心に海外への輸出も増え、これまでにもシンガポールや台湾、米国の他、タイの王室やミシュランガイド掲載店にも販売するほどに。海外への輸送は傷むリスクが高いため、対策として選別作業の徹底はもちろん、実の密度を高くする栽培方法を研究し、実現した。

 盆地で昼夜の寒暖差が大きい伊賀地域は、良質なイチゴを育てるのに適しているという。朝方は濃霧が出て日光が遮られ、ゆっくりと熟れていくため「甘さと香りがより濃厚な味わいになる」そうだ。

新栽培法を模索

 イチゴは実が傷まないように完熟前に収穫するのが一般的だが、同農園では甘さを増すため樹上完熟させている。朝に収穫したイチゴを選別して箱詰めし、夕方に発送することで、翌朝にはほぼ全国に届くという。

 昨年からは「気候変動からおいしさを守る」を掲げ、環境負荷を限りなく抑えたイチゴを栽培する「The Good Green Farms」を農業技術のベンチャー企業と共同で開始。温度や湿度、日照など天候の影響を制御できる閉鎖型のラボを設け、温暖化による干ばつや水不足など、気候変動に対応した新しい栽培方法を模索している。また、ラボでは世界的な農業適地の不足解消や都市近郊農業を実現するため、限られた農地でも棚などを活用して多層的に栽培する垂直農法を採り入れている。

 同農園では、精神疾患や依存症回復を支援する団体との連携で、社会での生きづらさからの生き直しに取り組む人たちをスタッフとして受け入れている。「世界に誇れる仕事を通じて、スタッフたちの居場所となるような農園に」と語る宮澤さんは「イチゴ栽培に精通した職人たちを育て、それぞれの強みを生かして品質の良い商品を作っていく」と意気込んでいる。

イチゴの研究を進めるラボ=同

2023年2月11日付837号4面から

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