その昔、空海(弘法大師)が修行で訪れ、突き刺した杖から芽吹いた木が育ったと伝わる「夕部柿」という名の渋柿の木が三重県伊賀市比自岐にある。古くから地域住民に親しまれ、今年もたくさんの実を付けている。
1888(明治20)年の「地誌上申書」などによると、1000年以上前、修行で各地を行脚していた空海がこの地を訪れ、寺院で一夜を過ごした際、持っていた柿の木の杖を茶園に刺して祈り続けたところ、一晩のうちに芽吹いたという。
幹周り約3・7メートル、高さ約4メートルで、枝が全て下を向いていたという先代の古木は、戦後ほどなく台風で倒れてしまった。光福寺(同市岡波)から移した若木が成長したと伝わるものが現在の2代目で、近年は地元の老人クラブが年2回、周囲を清掃しているそうだ。
「夕部」という名は、かつてこの場所にあった寺院「御幣(おんべ)寺」が変化したものと考えられ、周辺の地名は現在も「字夕部柿」。郷土史に詳しい荒鹿富美夫さん(86)=同比自岐=は「夕部柿は昔から『お大師さん(空海)からの授かりもの』と伝わってきた。今年も実ってよかった」と、実がなりだした木を見上げていた。
2022年10月22日付830号2、3面から
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