豪雨などによる決壊被害を防ぐため、「農業用ため池の管理及び保全に関する法律(ため池法)」が昨年7月に施行された。2018年の西日本豪雨などを教訓にしたもので、全てのため池の所有者や管理者は県や市に届け出をし、適正な管理と保全をする義務が課せられた。【地元にあるため池を調査する矢川地区の住民=名張市矢川で】

 現在、ため池は全国に約17万か所ある。伊賀市は1397か所、名張市は213か所の届け出があり、届け出率はそれぞれ78%と85%だ。現状と今後の取り組みを紹介する。

 名張市の西端に位置する80戸余りの矢川地区は、耕作農地が約30万平方メートルの小集落だ。農業用ため池は11か所あるが、その半数は農業用に利用されておらず、堤防の草刈りなどの管理も行き届いていないという。

 ため池法の施行を機に昨年11月、地元で農地や水などの資源の保全管理を実施している「矢川環境保全会」を中心とする現地視察があった。同会の松本任生代表は「こんな山の奥深くにも、昔は農業に使われていたため池があるのを初めて知った。設備も老朽化し、水漏れも見られ、このまま放置すれば危険だと感じた」と話す。

 同地区の農業従事者は年々減少し、所有者が不明になっている池もあるという。今後は管理者を明確にし、住民の協力を得ながら保全に取り組む考えだ。

 市農林資源室の担当者は「全てのため池の現状を区民自ら現地調査し、その対策に地道に取り組んでいる矢川地区は先進事例」と話す。

防災の観点で廃池検討も

 現在、多くの農業用ため池は受益者である農家によって管理されているが、後継者不足や高齢化によって、機能が失われたものも多くあり、見回りや堤の草刈りなどに手が回らないのが現状だ。

 伊賀、名張の両市では、無管理状態になっているため池は防災・減災の観点から、堤防を開削して廃池にすることを検討している。しかし、土石流などを受け止める緩衝材の役割もあり、開削費用もかさむため、廃池にするかどうかの判断は非常に難しいという。

 同法では、下流に家屋や公共施設があり、浸水被害が想定される防災上重要なため池は「特定農業用ため池」に指定される。これらのため池は、市町が個別にハザードマップを作成して住民に周知し、災害時の避難に役立てる。住民らが池の保全に影響を及ぼす堤体の掘削や竹林の植栽などを行う場合は県の許可が必要になる。

 県伊賀農林事務所の川部克彦課長は「両市では管内の主要ため池のハザードマップを随時作成し、ホームページにも公開しているので、ぜひ確認を」と話している。

2020年2月22日付 766号 22面から

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