名張市立病院 中村卓医師
フリーアナウンサー小林麻央さん(34)が乳がんの治療中であると公表したことを受け、乳がん検診への関心が高まっている。市町村が行う乳がん検診のうち、マンモグラフィ検診は40歳以上となっているが、30代はどう考えればよいのかなど、名張市立病院(名張市百合が丘西1番町)の中村卓医師に聞いた。
―市町村のマンモグラフィ検診は40歳以上です。30代は受けなくてもよいのですか。
乳がん検診の目的は「乳がんが原因で死亡する人を減らすこと」ですが、世界中で行った乳がん検診に関する大規模調査・研究では、40歳未満の乳がん検診について「乳がんが原因で死亡する人を減らした」ことが明らかな調査・研究はありません。
また、30代でマンモグラフィ検診をすると放射線被ばくのほか、がんがあってもわからないという不利益が増えるかもしれません。日本人は30代で乳がんになる人は多い傾向ですが、それでも40代以上でなる人の方が圧倒的に多いです。個人で受けるのは何歳でも構いませんが、それにかける時間と費用に見合った効果が得られるかどうかはわかりません。
―個人的に受けたい時はどうすれば?
名張、伊賀市内の開業医で乳房チェックをしてくれるところもあります。名張市立病院でも全額自費負担で行う全年齢対象の乳がん検診のコースがあります。乳房の一般的な検査方法としてはマンモグラフィと超音波検査があります。いきなり造影CTやMRI、PETを受けるのは費用や薬剤の副作用の点からも勧めません。
―身内に乳がん経験者がいる場合はどうですか。
乳がんになりやすい条件として一番影響があるのは「血縁関係に乳がんや卵巣がんの患者がいる」というものです。遺伝子に変化が生じて起こる「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」の人は特別な配慮が必要といわれています。HBOCの人が30歳未満でマンモグラフィ検診を受けると乳がん発症リスクが高まるという報告もあります。
遺伝子に変化があるかどうかは採血で分かりますが検査結果の解釈には専門的な知識が必要です。まずは遺伝カウンセリングを受けることを勧めます。個人に合った検査を受けるためにも自分の家系について正しく知ることは大切です。
―妊娠中や授乳中の検診については?
妊娠中や授乳中は、乳がんがあるかどうかは非常にわかりにくいです。近年の晩婚化で妊娠時期と乳がん発症時期が重なる傾向にあります。個人的な見解ですが、妊娠、授乳期にはどんな検査をしても分かりにくいことをご理解いただき、特に30歳以上で不妊治療を開始するような場合にはその前に乳房のチェックを受けてもよいかもしれません。
―このように乳がん検診が話題になることについてどう思われますか。。
有名人の乳がんがニュースになるたびに一時的に検診を受ける人が増えますが、継続的に受ける人はあまりいらっしゃいません。これはセンセーショナルに情報を伝え不安をあおるマスコミにも問題があると思います。正しい知識を伝え続ける姿勢がマスコミには求められます。40歳以上の女性には「継続的に」乳がん検診を受けることをお勧めします。
◆参考ホームページ◆
・日本乳癌学会(http://www.jbcs.gr.jp/guidline/p/)
・日本HBOCコンソーシアム(http://hboc.jp/public/index.html)
・日本乳癌検診学会(http://www.jabcs.jp/)
「伊賀タウン情報YOU 2016年8月後半(682)号」より