【「花を通して世界をハッピーに」と語る今野社長=名張市で】

熟練技術者が造るアートフラワー

 洗練されたデザインの花器から、しなやかな曲線を描くコチョウラン―。生花と見違うようなアートフラワーで、インテリアやギフト商品として人気だ。この世界的ブランド「エミリオ・ロバ」の生産拠点が、三重県名張市蔵持町芝出にある。

工房で素材を仕立て直すスタッフたち=同

 1989年、婦人服などのアパレルメーカー「イトキン株式会社」が、仏で生まれたブランド使用ライセンスを取得。その後、約30年にわたりアートフラワーの生産も続けてきた。

 しかし、同社のアパレル事業は茨城県に集約され、エミリオ・ロバ事業は名張でのみ継続。2020年には同事業も「株式会社ベル・フルール」(本社・東京都)に譲渡され、同年7月、新たに「株式会社エミリオ・ロバ」(同)の名張拠点として、元イトキン名張センターの建物の2階フロア(3000平方メートル)で再スタートを切った。

 両社の社長を兼務する今野亮平さん(44)は東京都出身。「日本フラワーデザイン大賞2006」で第1位を受賞した著名なフラワーデザイナーで、生花を乾燥処理して鮮明な色彩のまま長期保存するプリザーブドフラワーのパイオニアとして、03年にベル・フルール社を創業した。

 事業継承に当たり、今野社長は全国の百貨店売り場を視察。「30年間、名張で培ってきた技術の高さと花材の良さ、販売員の質の高さに感銘した」といい、「クオリティーの高さは他社より抜きん出ているが、ブランドとしての統一感に欠けていた。明確な目標を示すことで、更に飛躍できる」と実感したという。

 アートフラワーは生花でなく、花びらや茎などはポリエステルやプラスチックでできている。名張では、熟練技術者が海外から仕入れた素材を一つひとつチェックし、しなやかな枝の動きや計算されたデザインに仕立て直す。また、水に見立てた透明感のあるシリコン樹脂を、気泡が混入しないよう丁寧に花器に注いでいる。

「生花以上に表情を」ふるさと納税返礼品にも

 イトキン時代から携わっている女性技術者は「花に命を与え、生花以上に表情が出るよう心掛けている」と話す。こうした熟練者がブランドを支えているのだ。

 今野社長は着任後、まず3000円台から10万円以上の高級品まである商品ラインナップを、消費者目線で、生活シーンに合わせて見直した。次に、名張拠点に新設した自社スタジオで、自ら新商品に込めた思いを動画に収録。発売前にその動画を全店舗に流し、「コンシェルジュ(販売員)」の商品説明力の向上を図っている。更に、各店舗の展示・在庫の情報をデジタルで管理し共有している。

 ピーク時に57店舗あった百貨店売り場は11店舗にまで整理。過剰だった在庫も大幅に縮小し、売り上げはV字回復を果たしている。現在の従業員は64人で、このうち生産と物流を受け持つ名張拠点には18人が勤務しており、今後新しい人材を確保していく方針だ。

 同社のアートフラワーは、今年3月から名張市の「ふるさと納税」の返礼品に認定された。市役所玄関には、名張生産ブランドとしてエミリオ・ロバが飾られている。

 今野社長は「老若男女から喜ばれるフラワーデザインを通して、世界をポジティブにしたい。エミリオ・ロバの店で花を買うことがステータスであり、誇らしく思えるようなブランドにし、地方都市・名張から日本を制し、世界を制したい」と語った。

2021年6月26日付798号6面から

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