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熊野古道本 8年かけて出版 声を失った不屈の元新聞記者

161212_10.jpg 2度のがんを患い、声を失った元新聞記者が、丸8年の歳月をかけ、筆談の取材で書き上げた現代の道中記「熊野古道をゆく―伊勢路とその周辺―」(風媒社)が、12月出版された。古道と周辺の美しい写真の数々、そして読みやすい文体。一旅人の目と心で捉えた古道の道中記は、読む人に感動と勇気を与えてくれる。 【本を出版した萩原さん=名張市南町で】

YOU創刊の手伝い

 出版したのは、愛知県春日井市鳥居松町在住の萩原空木(本名・一夫)さん。ちょうど30年前、伊賀タウン情報YOU創刊当時、読売新聞社の整理部記者をしていて、数回にわたって紙面レイアウトの指導にやって来た人である。

先祖の熊野詣と同じルートを

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 新聞社在籍中の2000年に中咽頭がんにかかり、発声と食べ物の嚥下に支障を来すようになった。その時、萩原さんを奮い立たせたのが江戸時代の越後の文人・鈴木牧之が書いた伊勢路の道中記だった。更に長野県宮田村にあるご夫人・洋子さんの実家で同時代の先祖の熊野詣の納経帳を見つけ、「同じルートで、同じ石畳を踏んでみたい」という思いが募り、古道めぐりを始めた。

2度目のがん見つかる

 萩原さんは「春耕俳句会」の同人。同会が発行する月刊俳句雑誌「春耕」に、08年6月から熊野古道の連載を始めた。ところが連載の半ばを過ぎた11年、今度は歯肉癌を発症して執筆は休止に。「がんの進行が早く、手の施しようがない」と医師から告げられたようだが、「絶対に生還する。熊野古道の連載を完結させる」と自分に誓った。6か月に及ぶ入院中、何度も大量出血して医師団を慌てさせたが、その思いが天に通じたのか無事退院し、取材を再開した。
 
 しかし、2度目のこのがんで完全に声を失い、飲み込みもできず胃ろうの身になった。古道ではペットボトルの水をすぐ飲むこともできず、気管切開して喉の穴で呼吸をしているため、「歩行は正直苦しかった」と萩原さん。取材はすべて筆談だったが、「みな親切に応じてくれて、熊野びとの温かさが心に沁みた」と振り返る。

本を出版

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 そしてこの12月、道中記は出版された。A4変型判の本文192ページ建て(1冊2000円=税別)。本文と多くの写真、俳句で構成された豪華なエッセイ集になっている。表紙は八鬼山の古道、裏面はツヅラ峠から望む熊野の山々の写真で飾られ、古道だけでなく、本居宣長、松阪商人、紀州備長炭、種まき権兵衛、尾鷲の雨、カラスミ、狼煙場、紀州犬などの話題も取り上げられている。祭りや催事では、尾鷲のヤーヤ祭り、熊野の大花火、花の窟のお綱引き神事、那智の火祭などもあり、目次の頁の背景も含めるとカラー写真438枚、モノクロ資料写真4枚が掲載されている。

一旅人の驚きと感動が

 萩原さんは、「伊勢路は、紀伊路が法皇ら皇族が通った道なのに対し、庶民の道」と親しみを込め、さらに「地元の語り部などが書いたガイドブックではなく、あくまで事情通でない外部の人間が、新鮮な目と心で捉えた旅行記。感動が、驚きが、地元の人とは違うはず」という。「険しい峠道を歩くと、自分の鼓動や息遣いが古人と重なって感じられてくる。せせらぎの安らぎ、峠からの眺望の感動も。古人の心に同化できる古道歩きの魅力を書きつないだつもり」と、本に込めた思いを語った。

伊賀、名張の両市立図書館で読むことが出来る。

【萩原さんのプロフィール】1950年1月生まれの長野県駒ヶ根市出身。早稲田大学法学部を卒業後、読売新聞に入社、取材記者や編成(整理)記者を経験。現在は愛知県春日井市在住。俳句結社「春耕」「銀漢」同人。俳人協会会員。

 本に関する問い合わせは、風媒社(052・331・0008)へ。

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