YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「感じる」を楽しむ。

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「私がどうしてここで魚を買うのか分かります?」
 スーパーの魚売り場で、いきなり初老の女性に聞かれた。
 少し考えて「分かりません」と答える。
 なぜその質問を私に? ということのほうがもっと分からないが。
「匂いですよ。魚臭くないでしょ? ここの魚がおいしいのは処置に秘密があるからだわ」
 処置?
 秘密?
 何の話だろう。

「包丁の使い方の秘密よ」とご婦人。
 さばき方のコツのことかな。
「Y市のデパートの魚売り場も匂わないの。そこもおいしいわ」
「で、処置の秘密って何です?」
「知らない。秘密だもの」
 は?
「すべてこの鼻が感じたことよ!」
 どういう理屈だ......。
 当惑する私をよそにご婦人は「感覚は大事。磨かないといけませんよ」と説くのだった。

 しかし、匂う魚売り場ってあるのか?
 私の嗅覚が鈍いのだろうか。
「視覚以外の感覚が衰える現代」なんて話も聞いた。
 自分の感覚がちょっと心配。
 そんな折、作った焼き飯の味が変だった。
「焼き飯の素」を使ったのに塩味がしないのだ。
 味覚障害!? と怯えたところで春雨スープの一件を思い出す。
 塩辛すぎ! と感じたスープは春雨の入れ忘れだったことがあったな。
 改めて外袋の中を見たら、案の定「秘伝タレ」の小袋が残っている。
 使った小袋は「具」か。
 ......感覚より先に、心配すべきものがあるなぁと思った。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。