YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「治す」を楽しむ。

062.jpg 下宿中の息子から電話があった。
「錆び釘を踏んで足が血まみれになって、右手をついたら指も痛めた」。
どんな怪我だと様子を見に行くと、「血は止まって、破傷風予防の注射をした」という。
「指は?」
「整形の先生が総合病院へ行きなさいって。車で送ってくれる?」
 運転手を仰せつかった。

 病院の廊下で待っていたら、先生に呼ばれた。
「息子さんの指ですが・・手術が必要です」。
 え?
「全身麻酔でボルトを埋め込みます。手術後は入院となり・・」
 た、大変だ!

 X線、CT、麻酔医の説明。
 慌しく準備は進み、手術室へと運ばれていく彼。
 そして無事、終了。

「気分はどう?」
 息子に声をかけた。
「悪くないな」。
 ギプスの右手は痛々しいが。
「災難だったね」。
「ああでもこの苦難は必ずや俺を成長させるよ・・」。
 何か大袈裟である。
 だが、「これで左手が相当鍛えられるな」と呟いたかと思うと、急に目を輝かせた。
「大学の研究室で、皆で馬の絵を描いたんだ」。
 馬?「俺のだけ下手すぎて、皆が別の生き物って言うわけ」。
 何の話だ。
「左手を使うと右脳が開発されるだろ?右脳は芸術的センスを司る」。
「だから?」
「ギプスを外した暁には、素晴らしい馬が描けるかもしれないじゃないか!」
 ・・楽天的な怪我人の、治りはきっと早い。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。