YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「空想する」を楽しむ。

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 小さい頃、寝る前によく、父に「おはなし」をせがんだ。
 父がその度に即興で作る「おはなし」に聞き入って、場面を空想するのが好きだった。
 そのせいか、未だに人の話を聞きながら空想するクセが抜けない。


 イベント会場でコーヒーを飲んでいたときのことだ。
 隣に座ったおばさんが、私に世間話を始めた。
 それがいつしか身の上話に。
 空想は、人の「おはなし」に私を引き込み、話し手は饒舌になる。

 「娘は漁師なの。結構苦労したのよ」。
 漁師!
 空想全開だ。
 荒波にもまれる女漁師。
 朝日が彼女の顔に当たりきらきらと輝く。
 鍛えられた肉体。
 髪は多分長い。
「頑張った甲斐あって、娘は自分の店を出すの。○○(英語名)って店」。
 店も?
 魚屋さんっぽくない名前は、店主が女性のためだろう。
「お忙しくなりますね」
「そうね。明日やっと定休日よ」
 明日は月曜。
「月曜に休むんですか?」
「普通月曜定休でしょ、美容院って」。
 美容院?
 びようし......りょうし。
 意味を理解するのに数秒。
 空想の場面を大海原から瀟洒なサロンに修正するのにさらに数秒。
「お店、成功するといいですねっ!」
 私は不自然に声を高くした。

 空想癖は誤解を広げると、しばし反省。
 でも......誤解の空想も、ちょっと楽しい。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。