YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「仕上げる」を楽しむ。

057.jpg入試シーズン到来で、家庭教師の仕事が忙しい。
 この時期、受験生も保護者もぐっとナーバスになるものだが、あれこれ心配したところで今更どうなるものでもない。
 足りないものに悩むより、出来るようになったことに目を向けるほうが余程いい。
 試験が近づくと、私は、達成した内容を具体的に生徒に伝え、保護者には健康管理をお願いする。

 大学入試では遠方での受験も多くなる。
 緊張しがちなので、「ホテルで勉強するなら電気スタンドは便利。
 乾燥予防に加湿器も。
 フロントに頼んでおくと用意してくれるよ」など、どっちでもいいことだけ話す。
 それでも「緊張しちゃダメだと思っても、お腹いたくなる」と訴える生徒には「他の子も同じような気持ちだよ」と言い、加えて過去のエピソードを語ってみる。
 「英語の試験にうっかり英語が書かれた服を着ていった先輩、コートで隠せと試験官に言われてね、分厚いコートと暖房で頭はボーっとなるわ、答案は汗まみれになるわで大変だったらしい。でも合格よ」
 悪条件でもなんとかなるものなのだ。

 最後の指導では必ず「仕上げは上々だね!」と伝える。
 どの子も一生懸命準備して、極寒の中、凍えながら試験会場へ向かうのだ。
 自信を持って臨むのに、誰もが十分値する。

 そして迎える運命の瞬間。
 最近はネットでの合格発表が主流で、「私の受験番号はxxx。発表、見てくださいね!」と、メモを渡してくる子もいる。
 このときばかりは冷静ではいられない。
 発表時間ぴったりにアクセスすると繋がりにくいし、パソコンが固まったりも。
 特に印象深いのは、番号確認と同時に受けた生徒からの号泣電話だ。
 「ありがとーございますぅ!」だけわかったが、あとは日本語かどうかもはっきりしない。
 私の言葉も涙で詰まり、意味不明なやりとりをした。
 会話にならない会話が、最高に嬉しかった体験である。

 もちろん、逆の結果もある。
 そうなると、最後に伝えた「仕上げは......」の言葉が宙に浮いた気にもなる。
 だがあるとき、目標の大学へは行けなかった生徒からこんな手紙が来た。
「今、私は大学でレポートを書いています。小論文を教わったことが、ここでこんなに生きるなんて。やって無駄な勉強なんてないんですね。やっぱり仕上げは上々でした!」
 一緒に勉強したことを、丁寧に辿る彼女の手紙。
 一語一語が胸に沁み、思った。
 ......これも間違いなく「上々」、だね。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。