YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「贈る」を楽しむ。

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もうすぐクリスマス。今年も、ハンガリーにいる友人アイーダにプレゼントを贈るつもりだ。
 日本を愛してやまない彼女が、凝っているのは着物。買うだけでは飽き足らず、無地の反物に絵を描いて自力で仕立てようとするほどだ。
 だから、着物関連の何かを贈ろうと考えている。

当人から電話があった。
「パーティーで着物を着たから見てくれる?」
 メールで送られてきたのは、着物姿の彼女の写真。
 ネットの動画を見て着付けを覚えたにしては、なかなかさまになっている。
「萌黄色(もえきいろ)の帯が粋ね!」と絶賛したのだが・・
「あれ?」
 何か足元が変だ。
「これ、サンダル?」
 足袋にサンダル履きとはどうしたことか。
「サイズがなかったのよ!探したけど小さすぎて」
 だがとっくに手は打った、と彼女。
「オーダーメード草履よ。近所の靴屋に頼んである」
「近所に日本の職人が?」
「まさか。ゾウリが何かも知らないハンガリー人よ」
 そんな無茶な。
「写真見せたし、そこは職人魂よ。ハンガリーにはいい靴職人が多いの。ロバート・デニーロも頼みに来るってウワサだし」
「デニーロのお抱え職人なの?」
「それは別の店。でもきっと大丈夫!彼、修理専門だけど」

彼女の着物への情熱に感動した私は、すぐさま呉服屋へ向かった。
 簪(かんざし)を贈ろう。
 話しながらそう思いついたのだ。
 ところが、行った店には簪がない。
 申し訳なさそうにしていた店主は、「代わりに贈り物の極意をひとつ」と咳払いをし、(なぜ極意なのかは不明)「コツは贈る相手に『これは何?』と思わせること」と、棚からトランプ柄の小物入れを摘んだ。
「この柄は大正時代の長襦袢の復刻です」
 斬新なデザインだ。
「意外でしょ?ほらね、会話が広がる」
 なるほど。
「『これは何?』と思わせて語れるようなストーリー性が必要です」
 その後、ようやく別の店で桜模様の扇型の簪を購入。
 私はクリスマスカードを前に筆ペンをとる。
 扇形は末広がり。おめでたい形です。花といえば桜、云々」語るように、したためた。

草履を履いて簪を挿せば、彼女の着物姿は完璧だ。
 さて、草履の完成予定、である。
 聞いてみると「もう出来てもいい頃よ」と彼女。
「いつ注文したの?」
「ん~、1年前かな」
 1年って・・どんな力作だ。
 あるいは次も足袋にサンダルか?
 となると、簪を贈るのはタイムリー。
 これは何?と、皆の視線が頭に行って、足元からは逸れるから。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。