YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「克服する」を楽しむ。

054.jpg苦手なものを克服する方法-それは対象にとことん関わることである。
この夏虫に翻弄され尽くした娘が、身をもってこれを証明。
ついに虫嫌い(第40歩をご覧下さい)を克服した。

 3か月前、他県で暮らす彼女が取り乱して電話をしてきた。
「何かに刺されて私の足がこんなことに!」
 携帯に送られてきた写真には、両足に広がる無数の水ぶくれが。
「蚊より100倍くらい痒くて気が狂いそう!」
 皮膚科に行ったが虫の特定は出来ず、とりあえず塗り薬をもらったという。

 数日後、娘を訪ねると憔悴しきっていた。
 慰めると「それより変な虫を見つけたんだ。ほらここ」
 彼女が指し示す所には、小さな茶色の虫が10匹ほど居た。
 目を凝らすと......飛び跳ねている。
 これ......「ノミじゃないの?」

  原因は明白だ。
 野良猫が近くで子どもを生んだと、娘が写真を送ってきたことがあった。
 いつの間にかいなくなったとも話していた。
「ノミ、置いていかれた ね」
 すぐさま煙の出る殺虫剤を焚き、掃除機をかける。
 これで一安心と帰宅したのだが。

  再び携帯が鳴る。
 「また刺された!」
 まさか。
 燻煙式殺虫剤が効かない?
 慌てて調べに調べた。
 すると「虫が死んでも卵は死なず、次々と孵化します」との有難くない情報が。
「それじゃ、きりがないってこと?」
 悲鳴に近い声。
「いや、冬には居なくなるから」
「何か月先よ~」

 彼女の戦いは続いた。
 日に数回の掃除機。
 寝具の洗濯、日光消毒。
 ノミが嫌うペニーロイヤルミントの植栽。
 ユーカリオイルを薄めてスプレー。
 卵が孵化する タイミングで殺虫剤を焚くこと4回。
 私も参戦し、ネットで見つけたノミ捕り装置を送ったり、「ノミは若い女の生き血が好きです」などの余計な情報提供に励 んだりした。

  友人たちの同情も買ったようだ。
 「足を見せたらショックで涙ぐまれたほどよ。最近じゃ、周りの友だちが、毎日私の足に祈りを捧げてる」

  事態が収束に向かった頃。
 再度娘の部屋に泊まった。
 朝、ふと見ると私のシーツに茶色の点。
 金切り声を上げて捕獲した。
 隣で寝ていた娘は伸びをして「そ れ、最後かな」と落ち着き払っている。
「お母さん刺されなかった?あ、そうか」
 何?
「好物は『若い』女の生き血って」失敬なノミである。

 夜、洗面所でバシっと何かを叩く音がした。
「こんな虫!」と娘。
「ノミに比べりゃ何てことないわ」
 ......で、丸めたティッシュの中には何が?
「ん?ただの ゴキブリベイビーだよ」
 苦手を克服したら、別人になれるらしい。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。