YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「関わる」を楽しむ。

053.jpgあと2年で祖母は100歳になる。
 足が弱くなったので外出先は病院とデイケアだけになってしまったが、読書好きなことやユーモアたっぷりに話すところは少しも変わらない。
 例えば、何か失敗をしたときのつぶやき。
「やっぱり年やな。1回焼いてもらわな直らんわ」
 年齢が年齢だけにシュールである。
 使わなくなったアクセサリーを祖母がくれたので、お礼を言ったときもこうだ。
「気に入ってくれて良かったわ。これで思い出してもらえる......」
 そして悪戯っぽく笑うのだ。
 100歳を目前にすると死生観も超越的である。

 祖母は誰とでもすぐ打ち解ける。
 4世代ほど年の差がある介護士さんたちとも楽しく会話する。
「旅の話をしてたらな、若い介護士さんに『行きたい国はありますか?』と聞かれてね。
『黄泉の国へ行きたい』て答えたんや」
「またそんなことを。あの世へ行きたいだなんて、介護士さんが答えに困るでしょ?」
「それがね、介護士さん、『その国、外国ですか?』やって。『黄泉の国』の意味、若い人知らないの?」
「そうかも。それで?」
「『ま、外国みたいなもんかな』て言うといた」

とにかく祖母は若い。
 高齢者の脳を追跡調査した番組で、10年経っても脳が老化しない人たちの共通点は、周囲への関心や好奇心にあると解説していたが、すっかり祖母にも当てはまる。
 何についても興味があるので、デイケアでも周りをくまなく観察しているようなのだ。
「今日、認知症のおばあさんが、自分の指輪を介護士さんに『これ、あんたにあげる』言うてね。普通『そんなんもらえません』て答えるやろ?でも介護士さん、『ありがとう、きれいね』ってうれしそうに受け取ったわ。それから貴重品箱に入れて鍵閉めた。後で家族に返すんやろ。老人の気持ちを汲んで接してるわけやね」

人とどう関わるか。
 これこそ祖母の重要な関心事なのだ。
 そしてそれは、彼女の若さの秘訣でもある。
 ......一方、彼女の息子(=父)はというと......何やら慌てている。
「おばあちゃん、デイケアで食事するだろ?」
 食前に、うまく飲み込むための体操をするとか言ってたっけ。
 何か問題が?
「おばあちゃんな、食事のときにつける宝石の指輪がいるんだって」
 ため息をつく父。
 自分自身も喜寿を過ぎ、身の周りを整理し始めた父である。
「女ってヤツは......」
 そしてボソっと付け足した。
「オレも、死んでる場合じゃないな」

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。