YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「選ぶ」を楽しむ。

052.jpg美容院でシャンプーをするとき「フルーティーとローズ、どちらがよろしいですか」と聞かれた。
 お好きな香りを選んでくださいなんて、これまでなかったサービスだ。
 どちらかというと......ローズかな。
 フルーティーだと何か若すぎる感じだし。
 そこで「ローズ、お願いします」と答えた。

美容師さんがシャンプーを泡立てると、甘く優しい香りが立ち上る。
 優雅な気持ちになり「いいサービスを始めましたね」と言ってみた。
「ありがとうございます。他のお客様にも好評なんですよ」
 きっとそうだろう。
「もっと色々な香りがあるといいんですけどね」
 色々?
 5、6種類とか?
 それだとシャンプー台に頭を乗せたまま迷ってしまいそう。
  何かの本で「選択肢」の話を読んだ。
 販売の実験で、試食として24種類のジャムと6種類のジャムを置いた場合、ジャムを買った人が多かったのは6種類の方だったとか。
 選択肢が多いと選びにくく、買う行為に至らないらしい。
 シャンプーでも同じだろうと思い「2種類がいいです」と断言。
「選択肢は少ないほうがいいんです」
 本の受け売りってことは伏せておいた。
 
「選択肢」というと仕事柄、入試問題を連想する。
 生徒は記号を選ぶ問題で、よく消去法を使う。
 間違いだと思う選択肢を消していき正解を残す方法だ。
 しかし彼ら、2つに絞った後で間違える。
 最後の2つが似通っていて、どちらが正解かわからないからだ。
 正解にたどり着こうと思ったら、どう違うのかを見極めるしかないのに。

 ふと、ある疑問がわいた。
「男性のお客さんにもフルーティーとローズどちらにします?って聞くんですか?」
「はい、そうお尋ねします」
「彼らは何と答えるんです?」
「私が担当した男性のお客様のほとんどが同じ答えでしたね」
 同じ?
 根拠はないが、ローズな気がする。
「ローズですか?」
「いいえ」
「フルーティー??」
「違います。皆さん『どっちでもいい』と言われますよ」

 選びたくないのか、あるいは......選べないんだ。
 違いがわからないから。
「女性のお客さまだと100%どちらかを選ばれますけど」
 そう、結局はそこなのだ。
「選ぶ」とは。

 ......再び生徒の悲鳴が頭を過る。
「もう! こんな問題わかりませんよ! どっちだって同じでしょ?」
「違うって。ほら、こことここ見て」
 ......夏休みだし、2択必勝法の集中講義でもするかな。
 ローズの香りの中、そんなことを考えていた。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。