YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「振り返る」を楽しむ。

045.jpg「言いにくいんだけど」久しぶりに会った息子が私の顔をじっと見た。
「なら言わなくていい」と答える前に、彼は言い放った。
「なんか老けたね」
 ......君、それは禁句だろう。
 だが親の顔などに無関心な息子から指摘されたとなると、コトは重大。
 いただきものの中国製高級ナイトクリームがあったはず、と引っ張り出す。
「シワを消します」と断言する説明書に目を通し、クリームをたっぷり顔に塗ると、おじいさんの化粧品の匂いがした。

匂いと効能にギャップのあるシワ消しクリームを使うこと一週間。
 肌には何の変化もない。
 同級生の友人にボヤくと、彼女は言った。
「仕方ないよ。私たち年女よ?」
 卯年2011年、40代の年女。
 平均寿命からいうと人生の半ばを過ぎ、後半を歩んでいるところでの一区切りだ。
「年相応でしょ。ま、改めて自分の顔を見るのも節目だからよ」と彼女。
「同級生と話すと皆、今までのことを振り返る余裕が出てきた感じ。これまで前だけ見て、ずっと忙しかったよね」
節目と言われるとそうかもしれない。
 私自身、母親業が一段落した。
「確かに最近、母親役を降りてるわ、私」と友人に説明する。
「『ご飯前にお菓子なんか食べたらダメでしょ?』『使ったらきちんとしまおう』みたいなお馴染みのセリフがあるでしょ」
「定番だね。子どもに言わなくなった?」
「というより、私が娘に言われるようになった」
「何それ」
「教育上宜しくない振る舞いは抑えてたけど、相手は大人だしもういいかなと思うわけよ」
「それ、どうかと思うよ......」
しかし人生も後半。
 母という立場に縛られず自由気ままにというのは魅力だ。
 ストレスだってなくなるし。
 アンチエイジング関連の広告も「ストレスは活性酸素を発生させ、皮膚のバリア機能を低下させます」と言っている。
 シワ消しクリームより効果抜群なはず。
ミステリーを読み、着色料まみれの輸入菓子を口に放り込む。
 最後の1個が最後にならず至福の時が続く。
 息子が来て、私の前に座ったのでグミを勧めた。
「食べる?」
「いや、いい。いらない」
 付き合い悪いな。
 するといきなり彼は「現代人は昔の人より、死んでも腐りにくいって聞いたな」と不気味なことを言った。
「どうして?」
「防腐剤だらけのものを食べてるから」
 カラフルなグミが手から落ちる。
「ま、ウソだと思うけどね」と言い残し、去った。
大人になった子どもというのは、油断ならない存在だ。
 母の威厳失墜を悲しむべきか、子どもの成長を喜ぶべきか。
 だらけていると「そんなに運動不足だと、将来歩けなくなるよ」彼らの小言が降りかかる。
 人生を振り返るより先に、生活態度の反省かな、と思うこの頃である。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。