「観察する」を楽しむ。
真夜中にメールを知らせる携帯が鳴った。「部屋にムカデでた。あたし、もう死ぬみたい」。
一人暮らしを始めた娘からだ。
5秒後には「ムカデを見失った」。
翌朝には「ムカデのせいで4時間しか寝てない」。
夏の声を聞いた頃から、そんなメールがひっきりなしに来る。
「一体どういうこと!」今度は電話だ。
取り乱しながら、ホウ酸系ゴキブリ駆除剤の話をしている。
ゴキブリを見ることなく巣ごと駆除できるというアレだ。
「ゴキブリがケースの横で死んでるのよっ!どうして?」
どうして?と言われてもね。
「ホウ酸を巣に持ち帰って、そこで死ぬって約束でしょ!?」
......誰との約束だ。
「まだ別の何かもいる!」
「で、離れて暮すお母さんにどうしろと?」
私は素朴な疑問を投げかけた。
すると彼女、「見守ってて!」と携帯片手に実況しつつ、殺虫剤をまき始めた。
私はただ、彼女の悲鳴を聞き続けたのだった。
それにしても娘の虫嫌いは酷い。
一度、諭さなくては。
「怖いのは虫をよく知らないからよ。得体の知れないものには漠然と恐怖を抱くって言うでしょ。虫を観察すると好きになるらしいよ」。
そして、先日の出来事を聞かせることにした。
我が家の玄関口で立ち話をしていた友人と私。
ふと見ると、体長5センチはある青虫が足元を這っている。
「そういえば、小学校の先生をしてる友だちがコレを探してたわ。教室で飼うって。貰っていい?」と、友人。
「どうぞどうぞ。ウチの青虫ってワケじゃなし」。
せっかくなのでさらに3匹、庭の木から捕獲。
彼女は虫をビニールに入れ、鮮度が大事といわんばかりに慌てて帰って行った。
「ね?虫が欲しい人もいるのよ」と娘に言うと、「教室で観察するんでしょ?私の状況とは違うと思う」と反論。
「待って、話はまだ途中よ」。
私は先を続けた。
その週末。
庭の手入れをしていた夫が言った。
「鳥に食われたのかな、アイツ」。
何の話?私は耳を傾けた。
「会社から帰ってウチに入る前にね、毎晩懐中電灯で照らして見てたんだ。レモンの木にいた大きな青虫」。
え?!
「この間、突然いなくなってさ。鳥だろうな」。
違う。
「ごめん、それ鳥じゃなくて私」。
事情を話すと夫は眼を丸くした。
「オレの青虫......」。
しかし、夜な夜な青虫を観察する大人がいるなんて誰が思うだろう。
「今頃クラスの皆の人気者よ」と、慰めておいた。
「観察かぁ」娘が考え込んでいるので、念を押した。
「虫好きは観察するのよ」
後日、娘からメールが来た。
「図鑑によると、例の虫はムカデじゃなくてゲジゲジでした」。
ほらごらん。
でも調べるなんて一歩前進。
一つ私も調べてみるか。
―ゲジゲジは俗称で正式名は「ゲジ」。
害虫を捕食する益虫だが、見た目のため嫌悪される云々。
さっそく娘に電話だ。
「面白いね、ゲジ。敵が来ると自分の足を外すんだって。足はしばらくピクピク動くから、敵が気をとられた隙に逃げるらしいよ。観察したら、動く足とかも見られて......」
娘の応答がない。
一呼吸置いて「無理~!!」という絶叫が返ってきた。
逆効果だったかな?


コメント[2]
感想が書き込めるようになって、うれしいです。私はRAKUの時代から読んでいます。坪田さんの文章を読むと、何か、心が休まります。これからも頑張ってください。
Posted by ロビン at 2010年9月 7日 20:05 | 返信
No.159のロビンさんのコメントへの返信
ふっふっふっ(笑)
面白いです。
わたしいつもこっそり読んでました。
名張で配られているユーに載ってないなと思っていたら、四日市にも支店があったんですね。
坪田さん、毎回楽しく読んでおります。
次回も待ってます。
Posted by メグ・ライオン at 2010年9月 8日 15:14 | 返信
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