YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「働く」を楽しむ。

38.jpg京都へ行った。
 天気の良い休日とあって、古都は観光客でごったがえしていた。
 京都駅のバスターミナルでは、何人もの市バス職員が、観光客相手に奮闘している。
 バスのルートを聞く人、道を尋ねる人。
 外国人観光客の姿も。
 バスを待ちながら、ここで遊んでいられるのも休日に働く彼らがいるからこそ、と思う。

 バスが来た。
 車内は身動きがとれないほどの混雑ぶりだ。
 何か息苦しいな......とげんなりしていると、奇妙なアナウンスが聞こえてきた。

「しゃしゃっと曲がります」。

 運転手さんが、バスの動きを説明しているらしい。

「次、右でーす」。
「ちょこっと揺れます」。

 しゃべり続ける運転手さん。
 バス停付近では「バス停がお祭りになってますねー」と言った。

お祭り......。
 車で一杯という意味かな。
 バスを神輿に例えた表現かも。
 ......そのうちアナウンスは、乗客との対話にまで発展。

「次停まりますが、降りる方はどの辺にいらっしゃいますか?」。
「ハーイ、ここで~す。割と前にいます」。
 若い女性が答える。
「了解です」。
 調子を上げた運転手さん、「皆さん、バスが発車してから『ちょっと待って!やっぱり降りま~す』っていうのだけはやめてくださいね」。などと言い出した。
「それ、ホント困りますから」。

 あちこちで笑いが起こる。
 そして「ゆっくりと前へおつめくださいね。なにぶん大混雑しております」と、合間に乗客の移動を促すのを忘れない。

その後「皆さまのおかげで、停留所にいらっしゃったお客さま全員にご乗車いただけました。ありがとうございました!」と乗客の態度まで褒めちぎった。
 いつの間にか気にならなくなったバス内の窮屈さ。
 停留所に着くと「面白かったよ。ありがとう!」何人もの乗客がそう言い残してバスを降りていく。
 隣に居たおばさんがこちらを向いて言った。
「彼、楽しそうに働いてますね」。
 私は大きく頷いた。

「働く」といえば先日、ある青年が書いたこんな文を読んだ。
 「働く意欲が湧きません。この地球で生き抜くためにも働く意義を見つけたいです。どうすればいいですか?」
 さて、運転手さんだったら何と答えるだろう。

翌日。
 再び市バスに乗るため京都駅に行く。
 今日は地下街を通ろう。
 近道だし、と思ったのが失敗だった。
 バス停へ通じる出口がわからない。
 いつものように道に迷っていると、地下鉄の職員が助けてくれた。
 こちらは地下鉄の客でもないのに親切だ。
 丁寧な案内と柔らかな物腰にも感銘を受ける。
 お礼を言って再び歩いた。

 ......数分が経過。
 そして前方を確認したときだ。
 ......衝撃だった。
 行く手にはさっきの地下鉄職員の姿が。
 彼は何者?
 ......いや違う。
 自分がどこかで地下を一周......。
 私は彼の好意を無にする愚行を恥じ、とっさに柱の影に隠れた。
 そして猛省する。
 こういう客が彼らの仕事を増やすのだと。

久しぶりの京都。
 観光そのものより、働く人たちに目が向く滞在だった。
 日本中、世界中の客を迎える町。
 誰もが楽しめる工夫を凝らす町だ。
 例の青年のように、働く意義を見出すべく地球と対話する暇は、多分この町には、ない。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。