YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「挑む」を楽しむ。

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東京に来た。何年ぶりだろう。昔住んでいたとはいえ、方向音痴の私にとっては挑戦の街だ。当然下調べはした。ここ、赤坂見附のホテルから目的地新宿へは、地下鉄丸の内線1本で行ける。
 チェックインの後、東京にいる弟に電話をした。
「今、赤坂にいるの」。
 丸の内線で新宿の○○ビルへ行くと告げると、「丸の内線は止めたほうがいい」と弟。
 何で?
「そのビル、丸の内線新宿駅からは遠いよ。四谷でJRに乗り換えて新宿に行きなよ」
「遠いの? 新宿は新宿でしょ?」
「あのねー新宿って広いんだよ」
 ほう。さすが東京。

方向音痴に予想外の事態はつきものだ。
 常に何かに挑んでいる気がするのはそのせいだろう。
 弟は「ホントに大丈夫?一緒に行こうか?」と言ってくれたが、きっぱり断った。
 試練は乗り越えてこそ。

「もう一回言うよ? 地下鉄で四谷に出たら、JRの中央線に乗る。新宿までは1駅だから......」
弟の説明を反復しつつ、四谷駅まで来た。
 JRの切符を買って、さて中央線はと思ったら、普通か快速かに分かれる階段が現れた。
 探しているのは中央線なのに。
 ここは安全そうな普通を選ぼう。
 階段を降りてホームに行くと、小学生の息子に路線の説明をしているお父さんがいた。
 チャンス到来。

「すみません。ここは中央線ですか?新宿に行きたいのですが」
お父さんに聞いていたら、電車が来た。
「あの、私はこれに乗っていいんでしょうか?」
 彼は「いや向こうのホームからの方が速いんですが......ああーまあいいか。乗っちゃってください」と言う。
 私は言われるままに乗り込んだ。
「で、これは中央線?」
 電車が動く。
「いいえ、正確には総武線」。

「えっ?」
 隣で息子も頷いている。
「大丈夫、これも新宿に行きますから」。
ああ良かった。
「ただね、これ、中央線に抜かれるんですよ。もうすぐ」。
 中央線って快速なのか。
 私はようやく悟る。
 彼は車外を指差した。
「ほら見てて。ほ~ら、抜かれた! ね? 気分悪いでしょ?」
 いえ、それほどでも......。
「ちなみに新宿のどちらへ?」
 私はビルの名前を言い「そこへ丸の内線で行くのは無理ですか?」と聞いた。
「丸の内線で?ダメダメダメダメ!」
 そんなにダメ?
 この人たちにも何か見抜かれているのか。
 別れ際「頑張ってください!」と激励された。

JR新宿駅から目的地へはすんなり到着。
 これで一安心だ。
 用事も済み、後は帰るだけ。
 その時、目に留まったのがラックにあった周辺地図。
 1枚もらって眺めると、地図上には「丸の内線新宿駅」の文字が。
 ここか! 例の駅は。
 地図が挑戦状に見えた。
 行くしかない。

15分ほど歩いたか。
 地図が分からなくなってきたので、優しそうな人に道を聞いた。
 地球マークのブルーの幟の横でインフルエンザ予防マスクを配る彼は、予想通り親切だった。
 地球にブルー。
 平和維持活動かな。
 マスクとティッシュをくれた。
 歩きながらマスクの袋の文を読む。
「地球、ワクワク! 感染していいのは恋のウィルスだけ」。
 出会い系だったのか......。
 予想外の街、東京。
 そしてさらに歩くと、ついに見えた。
 丸の内線新宿駅!

夜、弟からメールがあった。
「行けたのか?」電話で詳細を伝える。
「あれほど説明したのに、何でそうなるんだ?」
 私にもわからない。
「まあね、日々、挑戦なのよ」。
 しばらく彼が無言だったのが、ちょっと気になる。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。