「座る」を楽しむ。
一人暮らしをする息子を訪ねた。
近況を聞くと、教習所通いもようやく終わり、残すところは筆記試験のみ、とのこと。
しばらくは車の話をしていた息子だったが、思いついたように「ちなみに、人との相性がわかる場所ってどこだと思う?」と付け加えた。
答えを促すと、「助手席」だと言う。
「聞いた話だけど、相性が知りたければ、その人が運転する車の助手席に座ってみて快適かどうかを確かめるといいんだって」
近況を聞くと、教習所通いもようやく終わり、残すところは筆記試験のみ、とのこと。
しばらくは車の話をしていた息子だったが、思いついたように「ちなみに、人との相性がわかる場所ってどこだと思う?」と付け加えた。
答えを促すと、「助手席」だと言う。
「聞いた話だけど、相性が知りたければ、その人が運転する車の助手席に座ってみて快適かどうかを確かめるといいんだって」
運転の仕方には性格が表れる。車の中、相手の横、というポジションも有効なのだそうだ。
「だからね、結婚相手を見極めるにも助手席でじっくり観察するといいらしいよ」。
なるほどね。
「だけど、いまさら私に結婚相手の見分け方を教えてくれてもさー」。
「確かにな......」
「だからね、結婚相手を見極めるにも助手席でじっくり観察するといいらしいよ」。
なるほどね。
「だけど、いまさら私に結婚相手の見分け方を教えてくれてもさー」。
「確かにな......」
「助手席に座れ」か。なかなか意味深い話だ。
運転の仕方もさることながら、「相手の横に座る」というのに興味が湧いた。
運転であれ何であれ、何かに熱中している相手の横に座ったら、その人の素顔を垣間見ることにもなるだろう。あまり知られていない一面を「横顔」というが、それこそ「横顔を見る」である。車の中のような閉じた空間は、人の横顔観察には格好の場というわけだ。
運転の仕方もさることながら、「相手の横に座る」というのに興味が湧いた。
運転であれ何であれ、何かに熱中している相手の横に座ったら、その人の素顔を垣間見ることにもなるだろう。あまり知られていない一面を「横顔」というが、それこそ「横顔を見る」である。車の中のような閉じた空間は、人の横顔観察には格好の場というわけだ。
息子と別れ、自宅へ向かう電車に乗る。混んでいたので窓側の指定席は取れず、私は通路側に座った。
隣の窓側の席には、50代くらいの女性が座っている。電車の中、他人の横――。何となく「助手席の話」を思い出させるシチュエーションだ。相性チェックの必要はないが、暇つぶしに観察などしてみた。
電車が駅を出るやいなや、お弁当を広げて5分で食べた彼女。携帯でメールを送り、紙とペンを出して「数独」をし、数分経ってから寝始めた。きっと、普段から時間を有効に使う主義なのだろう。人生を楽しむタイプかも。彼女の職業は......会社経営かな。自然食品かなんかの会社で、販売路線を開拓しようと分刻みで仕事をしている......とか。
事実を突き止めたいところだが、相手はすっかり眠り込んでいる。私は妄想を止め、本を読むことにした。
隣の窓側の席には、50代くらいの女性が座っている。電車の中、他人の横――。何となく「助手席の話」を思い出させるシチュエーションだ。相性チェックの必要はないが、暇つぶしに観察などしてみた。
電車が駅を出るやいなや、お弁当を広げて5分で食べた彼女。携帯でメールを送り、紙とペンを出して「数独」をし、数分経ってから寝始めた。きっと、普段から時間を有効に使う主義なのだろう。人生を楽しむタイプかも。彼女の職業は......会社経営かな。自然食品かなんかの会社で、販売路線を開拓しようと分刻みで仕事をしている......とか。
事実を突き止めたいところだが、相手はすっかり眠り込んでいる。私は妄想を止め、本を読むことにした。
車内は静かだったので、本の世界に容易に浸れる。
今日の小説は大好きなサスペンスもの。人質をとって立てこもる犯人を、ネゴシエーターが説得する緊迫のシーンだ。
息をつめて読み進めていると、「うぐぐぐぐ」。
横からうめき声がした。思わずびくっとなる。
隣の女性の寝言だが、タイミングが良すぎて怖い。
呼吸を整えて座り直し、さらに先を読む。犯人が言った。「......もう、遅いんだよ」。銃を手にする犯人。
と、そこで「うふふふふふっ」。
再び、ぎょっとなる。
彼女、寝ながら笑っている。実にスリリングな指定席だ。私は深く座席に身を沈め、次のページをめくった。
今日の小説は大好きなサスペンスもの。人質をとって立てこもる犯人を、ネゴシエーターが説得する緊迫のシーンだ。
息をつめて読み進めていると、「うぐぐぐぐ」。
横からうめき声がした。思わずびくっとなる。
隣の女性の寝言だが、タイミングが良すぎて怖い。
呼吸を整えて座り直し、さらに先を読む。犯人が言った。「......もう、遅いんだよ」。銃を手にする犯人。
と、そこで「うふふふふふっ」。
再び、ぎょっとなる。
彼女、寝ながら笑っている。実にスリリングな指定席だ。私は深く座席に身を沈め、次のページをめくった。
しかし、何か感じる自分の右側。
右横を見ると、通路を隔てて隣に座る女性と目が合った。彼女はすっと視線をそらせたが、うっすら残る口元の微笑み。
それは、隣の寝言にびくつく私の様を、しっかり見ていたという微笑みか?
私は本を伏せ、眠くもないのに目を閉じた。
右横を見ると、通路を隔てて隣に座る女性と目が合った。彼女はすっと視線をそらせたが、うっすら残る口元の微笑み。
それは、隣の寝言にびくつく私の様を、しっかり見ていたという微笑みか?
私は本を伏せ、眠くもないのに目を閉じた。
見ているつもりが、見られている。誰かが隣に座ったら、用心するにこしたことはない。


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