YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「温める」を楽しむ。

033.jpg寒い。
寒すぎる。
どうしてこう身体が冷えるんだろう。
もちろんすでに着膨れている。

 朝、その日に着る洋服を抱えていると、夫に言われた。
「それ全部着るの? なんか大変だね」。
確かにかなりの量だ。
夫は、寒さに震える妻が哀れだったのか、「薬用○○酒を飲んでみたら?」と提案した。
薬用のお酒? いいかもしれない。
さっそく1瓶購入し、何がどう効くのかとリーフレットに目を通す。

 興味深かったのは、成分・効能とともに書かれていたお酒の由来だ。
400年以上前、雪の中に行き倒れていた老人を助けると、お礼にこの薬酒の製法を伝授されたらしい。
「いわれある者」と書かれているが、何者だろう、その老人。
製造元のウェブで「よくある質問」をチェックしたが、「Q老人は何者ですか?」というのはなかった。
神秘のベールに包まれた老人か。
つまり私はその秘伝の薬酒を手に入れたわけだ。
この冬には勝ったようなものだな、と思った。

これを機に、温かく冬を乗り切るプランを練り始めた私。
冷えた身体にはやっぱりお風呂だ。
身体の芯まで温めるには、長風呂がいい。
湯船に身を浸しながら、今、皮膚から2センチ内部まで加熱......今、3センチ(数値はイメージです)、と熱の伝わり具合を計測し、さらに茹で上がる自分を想像すると長風呂ができる。
冷たい身体をこんな風にじんわり温めていくのは、何とも心地よい。
冷えているから余計に沁みる温かさ。
ここに来て、かわいそうな凍える身もそう悪くはないかな、と思えてきた。
冷え性万歳。
時々、真冬の寒空の下でも半袖の人を見かけるが、彼らはきっと「長風呂なんて熱くて嫌だ」という口だろう。
君たちに、温泉の醍醐味はわかるまい。

効きそうな温泉といえば、にごり湯だ。
視覚的にも温まりそうな、有馬の赤湯は実にいい。
ただ、めったに行けるものでもないので、日頃は色つきの入浴剤で代用している。
昨日、使用中の入浴剤が減ってきたので新しいのを買いに行った。
最近の入浴剤は、何でもありかと思えるほど、配合成分が多種多様だ。
パッケージには、薬草や果汁、酵素などのカタカナが並んでいる。
よく分からないまま「ポリフェノール入り」というのにした。

湯の色は紫。
ワイン風呂みたいで面白い。
そうだ! 今使っている入浴剤はまだ残っているが、この新しいのをすぐ開けて、交互に使ったらどうだろう。
2種類のお湯を日替わりで楽しむ贅沢。
どうして今まで思いつかなかったのか。
毎日律儀に同じ入浴剤を使っていたなんて。
さあ、ゆっくり温まろう。
早めにお湯を入れ、「今日は新しい香りのポリフェノール風呂よ!」と家族に宣伝した。
一番風呂はもちろん私。
鼻歌交じりに新しい入浴剤を準備して、今までの入浴剤の横に並べた。

あれ? ふたの色が同じだ。

よく見るとパッケージの柄も。

もしかして、これって同じもの?

「ポリフェノール配合」という文字を、前にもどこかで見たなと思ったが、まさかここだったとは。

「何が新しいんだって?」娘が聞きに来た。
私はお風呂の中で身体を温めながら「何でもないわ~」と訂正した。
そして真剣に思う。

(頭だけは冷やしたほうがいいな)と。

「温める」を楽しむ。のトップへ戻る
シアワセ感じる100歩のトップページに戻る

コメントする

執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。