YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「聞く」を楽しむ。

030今年私はアダム・ランバートのファンになった。デビュー前の彼がテレビで歌っているのを偶然見て、抜群の歌唱力に衝撃を受けたのだ。
 その彼がついにファーストアルバムを出すという。
 当然私は大興奮だ。
 会う人会う人にそれを伝えているが、どうもうまくいかない。

「アダム・ランバートがね......」と言うと、「誰それ。知らない」。

 話が続かないのだ。
 まあそうだろう。聞いたこともない歌手Aについて語られても、コメントの仕様がない。
 ああ、それでもやっぱり語りたい! 聞き手はきっとどこかに......と、思う日が続く。

誰もが知る話題なら、聞き手を探すのも簡単だ。しかし、知る人が限られているとそうはいかない。数年前に出会ったあの人たちも、私のような状況にあったんだろうなと、今思う。
 あの人たちとは、世界の中の「ニッポン」マニア。彼らが自国で日本を語るとなると、特殊な話題になるらしい。
 彼らを私に紹介したのは友人H 。「『日本を語る』っていうネットのコミュニティーがあるんだ。参加してよ」と、難しそうなことを言った。
 だがよく聞くと単なるチャットルーム。日本マニアの外国人が集っているだけみたい。

「日本人に来て欲しいんだって。日本語と英語両方使う人もいるから、英語を勉強できるよ。タダで」。

 私は参加を決めた。

「日本人の方ですか? やったあ!」
 チャットルームに入ると、部屋の人たちがどよめいた。大歓迎ぶりにうろたえていると、いきなり質問責めに。
「黒澤監督作品○○の○○のシーンどう思う?」

......え?

「根付ってクールだよね。その歴史に詳しい?」

......私は「わかりません」を連発。面目ない。そのうち彼らは質問を諦め、語りに転じた。
 忍者の忍術、ドラゴンボール、盆栽、だしの取り方......云々。内容がどれもピンポイントすぎて面白い。私は聞き役に徹したが、これだけは言っておいた。

「カツオだしは取れます」。

すると、トルコ人男性が「日本は好きだ。でも日本食は食べない」と言う。
何で?

「だって日本人って生っぽいものを食べるんだろう?」

刺身のことかな。

「トルコでは生の魚は食べないの?」と聞くと、「トルコ人は、きちんと料理する」。

何か誤解があるようだ。

 あるベトナム人女性は「私はスキヤキを作りたい」と、すき焼きついて熱弁をふるった。が、最後に「でも、スキヤキってどんな味なんだろう」。
すき焼きを知らずして何故すき焼き?

「日本が好きだから人気の料理を作りたいの」。

 うれしくなる。私の知らないニッポンを、たっぷり聞けたひとときだった。「聞く」って確かに難しい。「聞く技術」などの指南書があるのもそのためだ。でも、相槌の打ち方はこう、なんて考えるより「聞く楽しみ」に浸ってしまう方がずっといい。

さて、次なる「アダムの歌はすごいの!」のターゲットは友人K。彼女の答えはこうだった。

「どんな風に? 待って、名前メモするわ」。

 そして綴りまで聞く。

「ゆっくり言って。Adam Lambertね」。

 この反応! 私が彼女を好きな理由のひとつがこれだ。彼女を前に大いに語る私。Kは興味津々な様子で聞き、さらに言った。

「帰ったら動画サイトを探さなきゃ!」

 Kほどの聞き上手、たぶん他には居ない。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。