YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「驚く」を楽しむ。

008.jpg「うわっ、何で?」弟のカードマジックには、毎度驚かされる。彼は巧みにカードを操り「そのリアクション、いいねー」と喜ぶ。私にトリックは見破れない。いつもあっさりと騙される私の頭の中は、かなり単純に出来ているのだろう。だが、それでは言葉の響きが悪いので「驚き上手」なんだと自分を慰めている。

しかし考えようによっては、簡単に驚けることはオトクではないか?マジックやサスペンスものが人気なのも、皆ひそかに「びっくりしたい!」と思っているからだろう。それなら「驚き上手」な人は驚きを楽しむチャンスに恵まれているわけだ。素人マジシャンの有難い観客にもなれるし、推理小説のトリックにはまり、最後の数ページを確実に楽しめるのだから。

さて、驚き上手な人間に禁忌なのは「ホラー」である。私は昔、「キャリー」という映画のラストシーンを観てソファから転げ落ちて以来、観ていない。映画どころか遊園地のお化け屋敷さえ避けている。そんな頑なな姿勢を貫いていたのに、先日困った事態になった。「文化祭のお化け屋敷、絶対来てね!」と娘が言うのだ。「そ、それは・・」と口ごもる私に「皆で、遅くまでかかって頑張って作ったんだから」と、有無を言わさぬセリフを吐く。(素人の作るものだ、そんなに怖いはずがない)と無理に納得し、約束。「わかった、行く」

当日、お化け屋敷は好評のようで行列が出来ていた。入場を考え直したかったが、入り口近くで娘の友人たちに会った手前、引き返せなくなった。そして、順番が来る。幸い夫も一緒だったので、先に行ってもらう。真っ暗な教室。狭い通路。中は、寒い。何かが急に出てきたりしている模様だが、夫の背中に隠れて進んでいるためよく見えない。彼が先に、いちいち驚いている。夫を盾に、目を半ば閉じながら進むというのは大成功だった。ようやく出口か?と思った時、目の前に、背中を見せてうなだれる2人の人影が。とっさに身構える。一人がゆっくりと振り向いた。着物を着た少女で、顔は血まみれだ。固まる私。と、突然、もう一人の少女の首が外れ、飛んできて私の足元に転がった。これには絶叫してしまった。もう泣きそうだ。すると、血まみれの顔が言った。「あ、お母さん!」その一言には、本当に驚いた。「怖かった~?」と、笑う顔も怖い。娘はおもむろに飛ばした首を拾い、再度スタンバイ。呆然としていると、彼女にさっさと退場するよう促され、お化け屋敷を後にした。私たちは、仕掛け人たちをさぞ喜ばせたことだろう。「彼ら、なかなかやるね」と夫と話すうち、子どもに心底驚かされたことが、愉快に思えてきた。そして「大きくなったもんだねー、私たちをまんまと騙すなんて」と、屈折した感慨にふけったのであった。

数日後、夕食を用意していると、子どもたちの会話が聞こえてきた。一般公開はなかったが、息子の高校でも文化祭があったのだ。「お兄ちゃん、なんでそんなに声がかれてんの?」と妹。兄いわく「ゾンビ疲れ。ゾンビになって声を出しすぎてね。」思わず玉ねぎを刻む手を止めた。(娘が血まみれで、息子がゾンビ?)驚きの事実に、苦笑するしかない母だった。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。