YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「話す」を楽しむ。

025.gif「それって誰??」息子と世間話をしていると、彼は突然、何の脈絡もなくそう言った。「は?誰って何?」話がまったくかみ合わない。特定の人の話をしているわけでもなく、ただ私は「宴会が盛り上がったときに......云々」と言ったのだ。「だから、誰さソレ。ガンダムのパイロットの名前みたいな人」。ガンダム??何のことだ?「今言っただろ。エン・タケナワって」。......絶句した。誤解の仕方がすごい。「宴会でさ、『宴もたけなわですがそろそろお開きに』とか言うでしょ?」と説明すると「そんな宴会、出たことない」。なるほど。それにしても「宴たけなわ」って一般的な表現じゃなかったのか?さっそく次の日、会社の若い人に聞くと、彼女も「あんまり使いませんよ。それ」と言った。死語になりつつあるんだろうか。

仕事で高校生と話をすることも多いのだが、「それ、どういう意味ですか?」とよく聞かれる。私の語彙は死語だらけなのか?と、若干心配だ。逆に、私の使わない表現を自在に操る彼らに驚くこともある。例えば、相槌の打ち方。娘や彼女の友だちと、話をしていたときのことだ。私の話した内容について、「ひどいねぇ」とでも言ってくれるのかと思ったら、女子高生たちは口をそろえてこう言った。「ウッソー!マジぃ??アリエナ~い!サイアク~!」。力強い共感に、私は感動すら覚えたのであった。

言葉は変わる。使わなくなる言葉がある一方で、新しい言葉もどんどん生まれているのだろう。違う世代の人と話をすると、それを実感できるのが面白い。上の世代との会話も同じだ。私が高校生だったころの、祖母とのあの会話は忘れられない。話の中で彼女は「せんざいのサツキがね......」と言ったのだ。私は「おばあちゃん、今『せんざい』って言った?」と、思わず繰り返した。その時私は古語のテスト前で、「前栽(せんざい)=庭のこと」と暗記したばかりだったのだ。(「ぜんさい」じゃなくって「せんざい」か。難しいな、古語......)と思ったその言葉が祖母の口から出ようとは。完璧に暗記できたことは言うまでもないが、古語を使う祖母が、何だか風流人に思えたのだった。当分私に孫はできそうにもないが、いつか孫が生まれたら、死語でも何でも総動員して会話をしたい。そのころになれば、私が使い続ける死語たちは、古語になっているかもしれず、確実に私も風流ばあさんになれるのだ。それまではいろんな世代と話し、異世代間コミュニケーション術を磨くことにしよう。

ある日のこと。4歳の少女と話をしていると、彼女に言葉を直された。「どこへも寄らずに」という意味で「まっすぐ行く」と言ったのを、首を傾げながら彼女はこう指摘した。「おばちゃん、道を曲がらなきゃ行かれないのよ?」......話をするって、実に楽しい。そして、日本語は奥が深い。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。