「招く」を楽しむ。
「もうすぐ、オーストラリアから留学生が来るんだけど」。我が家に留学生を招くのは3回目。とはいえ今回も何を準備したものかと考えあぐね、アメリカ人の友だちに助言を求めた。彼は「特別な準備はいらないと思うけど」と言いつつ、こう付け加えた。「どれがシャンプーなのかは教えてあげて欲しいな」。不可解な答えに戸惑っていると、かつて日本で困ったことがあったという。「ホテルの大浴場に行ったとき、備え付けのボトルの文字がカタカナで全然読めなかった。どっちがシャンプーで、どっちがボディーソープなのかわからなくて」。そんなことがあったのか。「仕方ないから、両方混ぜて全身を洗ったんだけどね」。気の毒な話だ。(肝心なところに英語がないときは要注意ね)。私は、彼の有難い助言を心に刻んだ。「ハーイ!」。はじけるような笑顔の高校生、ステファニーがやってきた。娘とは旧知の間柄のようにすぐ打ち解け、デジカメを見せた。「日本で撮った写真なの」。写っているのは集団登校中の小学生。「黄色い帽子がキュートでしょう?」と満足気だ。和室では用意した布団を見て「キュート!」と感動し、これも撮影。「ところで......」私は話の腰を折って、彼女を風呂場に案内した。「これがシャンプーで、こっちがボディーソープよ」。「OK。アリガトウ!」唐突だっただろうか。でもまあこれで安心だ。
休日のプランは娘が決めた。名古屋で買い物をし、プリクラを撮って、かわいいお店でランチだそうだ。「名所旧跡がないよ?」というと、娘は「日本の女子高生がこれで楽しいんだからステファニーも同じよ」と自信満々だ。名古屋に着くと、2人は次々と店を回り、小物を吟味したり、買いもしない靴を試したりと大忙し。路上ライブに足を止め、拍手を送る彼女たちを見ていたら、確かに特別な準備はいらなかったなと思えてきた。
だが名古屋ではハプニングも。高層ビルのトイレに入り、洗面所の前でステファニーを待っていたときのこと。突然、けたたましい警報音が鳴り出した。「ステファニー、やっぱり押しちゃった?」と娘。「ここ、自動で水が流れるトイレでしょ。でも非常ベルが手元にあるんだもん。英語の説明はないし」。瞬間、友の助言が脳裏をよぎる。(肝心なところに英語がない......)。「ドーシヨ~!」覚えたての日本語を叫び、ステファニーがトイレから出てきた。3人で解除ボタンを探すが見つからない。警報音は鳴り止まず、ついに警備員の男性2人が駆けつけた。「すみません。間違いです」。私たちは平謝り。彼らは警報音を止め、流せていなかったトイレの水を流し、無言のうちに去っていった。「ハズカシ~!」ステファニーは、顔を赤くしながらも「でもめったにない体験よ!友だちに話さなきゃ」と元気一杯だ。どこの国でも女子高生はたくましい。
「見て!すごくキュートよ」帰り際、ステファニーがカメラを向けたのは大福餅。私たちはそれをおみやげに買い、名古屋を後にした。
彼女を招いた数日は、日常がキュートに彩られてうれしかった。また来てね、ステファニー。今度はシャンプーだけじゃなく、非常ベルもちゃんと教えるから!


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