YOUが送るオンライン読み物「シアワセを感じる100歩」

「戦う」を楽しむ。

018.jpg「虫」は苦手だ。でも一時期、虫なんか平気なフリをしていた。15年ほど前のことだ。幼稚園から帰ってきた息子が、無邪気に「お母さん、おみやげ~」と、私の手に虫を乗せた。衝撃のためか何の虫だったかどうも思い出せないのだが、動揺をひた隠し「ありがとう!」と喜んでみせたことだけは覚えている。母として実に立派だったと自分を褒めたい出来事である。しかし、だ。彼のおみやげ捕獲は次第にエスカレートし、私まで付き合わされる羽目になろうとは。虫嫌いを封印した約10年には、カブトムシもクワガタも飼った。そしてカマキリレベルの虫は無理だが、バッタ程度は触れるまでになったのだった。

息子も大人になり、虫好きのフリを続ける必要もなくなった。今や、かなりの種類の虫が「敵」である。1番憎いのは、夜徘徊する黒いヤツ。幸い今年は対戦していない。2番目に嫌なのは、眠りを妨げる蚊。私の怒りのボルテージを上げた事件もあった。就寝中、耳元のうるさい蚊に我慢できず殺虫剤を掴んだ。蚊を狙ったはずが、寝ぼけて自分の顔に逆噴射。殺虫剤まみれになった私は、情けなさを噛み締めながら午前3時にシャワーを浴びたのだった。あれ以来、蚊に効く新製品が出るたび試す。この夏はハーブの香りがするジェル状の蚊よけを買った。蚊が嫌う匂いのするゼラニウムも植えた。なかなかの戦略だったらしく、敵は若干襲撃をためらっている模様だ。来年はこの植物を挿し木で増やし、窓の近くに防御網を巡らすように植えたらどうか、と新たな策を練っている。

でも、たまに思うのだ。虫だって懸命に生きている。それを敵!などと毛嫌いするのも勝手すぎやしないか、と。夏の初めに庭で蝉の羽化を見て、次第に羽の色が変わる神秘に心動かされた。羽化の様子をカメラにも収めた。だが翌朝庭に出た途端、その思いはかき消された。木にとまる蝉の大合唱。耳を劈くばかりの大音量だ。お願いだから少し静かにして!と木をゆすったら、ぴゅっと液体が降ってきた。敵とは思っていなかったが、考え直させてもらいたい。

コガネムシも敵だ。可憐な花が咲くウツギを容赦なく食い荒らす。そこで駆除方法を調べると、フェロモントラップでコガネムシを調査している機関を見つけた。これだ!と思った。メスの匂いでオスをおびき出し捕獲するフェロモン大作戦。薬じゃないので安全だ。早速、電話で問い合わせる。専門家らしい人が出て、仕組みを説明してくれた。コガネムシをだまし打ちにできることを知った私は、ほくそ笑みながらそれを購入したいと告げた。すると「それはちょっと。うちのはあくまでもコガネムシの発生などを調査するためのものなので」との答え。私が諦めきれずにいると、彼は恐るべき一言を放った。「それにフェロモンに誘われて、ご近所中のコガネムシがお宅に集まってくるかもしれませんよ」。町内コガネムシの大集合?それは困る。私はお礼を言って静かに電話を切った。

策に溺れるのはダメかもしれない。それなら正攻法で戦うか。でも正攻法って何?と庭に出て考えていたら、足を2か所、蚊に刺された。考えるのはもう明日にしようと思う。

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執筆者・坪田多佳子プロフィール

1963年東京生まれ。ライター、小論文及び国語科専門プロ家庭教師。
「シアワセ感じる100歩。」は、2007年4月から2009年3月、朝日新聞の姉妹紙「RAKU(楽)」に掲載し、好評を得た。現在は「YOUよっかいち」の紙面と伊賀タウン情報YOUホームページで連載中。
日常生活で見つけた小さなシアワセをテーマに「~を楽しむ。」と題して1か月に1歩ずつ歩み続け、「100歩。」達成を目指す。
YOU紙面へはピンクリボンの記事も出稿。
趣味は読書、料理、英会話。インターネット上で、日本マニアの外国人に日本語を教えたりもしている。
家族は夫、息子、娘。松阪市在住。