「買う」を楽しむ。
「○○のセールがあるんだけど、行く?」友人に誘われた。どうしようかな。近頃、セールはちょっと自粛しているのだ。昨年、消費生活を考えるグループの方に取材をする機会があって、印象深いお話をたくさん聞いたから。例えば「安いものには、安い理由がある」という話。彼女いわく「ある食品のセール品と正価のものを調べたら、同じ商品として売られているのに、セール品のほうが軽かったの。安くする分、量を減らしたのね」。つまり「安く買って得をしたのではなく、安い値段のモノを買っただけ」というのだ。そうか!そんなからくりがあるとも知らず、私は幾度となくセールの文字に踊らされてきたのか。これからは賢い消費者になって、要るものを正規の値段で買うことにしようと反省したのだ。傘を買いに行ったのは、その後だ。セールならもっと安く買えるが仕方がない。質とデザインを吟味し、シックな傘を選んだ。「大切に使おう」。そう思い、雨の日が楽しみになった。
数日後、雨が降り、買ったばかりの傘をさして銀行へ行った。傘立てに預け、用事を済ませる。さて、帰ろうと思ったら傘がない! 閉店間際の銀行は、お客もまばらで、傘立てに残っていたのは、男物の傘一本。「私の傘が、ないんです」と悲しみに震えながら銀行の人に訴えた。彼は神妙な面持ちで「わかりました。どうぞこちらへ」と、私をついたての裏へと導く。さすが銀行、対応が慎重だ。「この残された傘をお持ちのお客様が間違われたのではないでしょうか」と彼はおもむろに切り出した。「まさか!」と私。「これは男物ですよ?」彼は思案顔で「色が似ていたのかもしれません」という。でもこの黒い傘は、どこにでもあるフツウの男物の傘だ。「私の傘も確かに黒っぽいですが、柄が微妙にカーブして、もっときれいなんです。こんなに古くないし」と必死に説明をする。「これより数倍、素敵な傘なんです!」すると背後から「すみませんが......」との声。振り返ると、ぱりっとしたスーツを着た男性が、私の傘を持って立っている。「傘、間違えました」と彼。え?あなたはいつからそこに?と思ったがもう遅い。傘を取り戻さんとする私の演説をすっかり聞いていたのだろう。彼は素早く自分の傘を取り、高級外車に乗って風のように去っていった。ともあれ、私は傘を死守できたのだった。
雨さえしのげればいい、と傘には無頓着だったので、これまで私は傘をよく失くした。だが、じっくり選んで、それなりのお金を払って買ったその傘は失くさないように思う。モノを買うとはこういうことか。これぞ、買い物の真髄。
......そうだ、友人に返事をしなければ。でもあのセール、毎回いいものが出るんだっけ。買い物の真髄も大切だが、ラッキーな値段で手に入れる醍醐味も捨てがたい。今回、ホントにお得なものに出会うかも、と思い結局「行く!」と答えてしまった。私はとても意志が弱い。


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